[木内里美の是正勧告]

何が変わるのか? Web3の世界を考察する

2022年9月1日(木)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

「Web3(ウェブスリー)」と呼ばれる次世代インターネットの話が盛んになされている。Web 2.0が注目されたのは2000年代半ばのことだったが、Web3をどうとらえたらよいだろうか。インターネットや周辺テクノロジーのこの先の進化について、これまでの振り返りと、社会や人の行動様式の変化も合わせて、いったんの考察を試みたい。

Web 1.0からWeb 2.0までの進化過程

 インターネットの黎明期、Webは、WWW(World Wide Web)と呼ばれていた。URL(Uniform Resource Locator)の先頭にあるhttps://www~がそれだ。WWWが一般に知られるようになったのは、米イリノイ大学の国立スーパーコンピュータ応用研究所(NCSA)が1993年に、WWWを参照するためのソフトウェアとして、ブラウザ「NCSA Mosaic」を無料公開した頃だと記憶している(画面1)。

画面1:NCSA Mosaicのバージョン1.0。世界中の大半のユーザーがこのWebブラウザでインターネット体験を始めた(出典:NCSA)
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 当時はダイアルアップで回線をつなぎ、インターネットイエローページというホームページのURL集を購入して、Mosaicで企業・組織・個人のWebサイトを閲覧していた。インタラクティブではなく、一方向での参照主体だったが、それでも新しい時代の到来を感じ、いろいろなホームページを楽しんでいた。この時代は、Web 2.0の到来で、後付けでWeb 1.0と呼ばれるようになる。

 Web 1.0とWeb 2.0は不連続ではなく、連続的な進化の中で変遷した。背景の1つに通信環境の向上がある。2000年前半からADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)が普及した。いわゆるブロードバンドで、ADSLはやがて光回線に引き継がれ、さらに高速・広帯域の通信ができるようになった。もう1つは、2000年代後半のネットサービスの広がり、つまりクラウドで、後のスマートフォンの普及で決定的となった。

 相前後して、後にGAFA、ビックテックと呼ばれる大規模・グローバルなクラウドサービス事業者が台頭し、Webは一方向から双方向へと進化する。2004年にFacebook、2006年にTwitter、2010年にInstagramがそれぞれ創業し、ユーザー同士をつなぐSNS(Social Networking Service)が一大ブームとなった。この時代をWeb 2.0と呼んでいる。Webの利用形態も、PC以外にスマートフォンやタブレット、スマートウォッチも加わって現在に至っている(関連記事本誌のWeb 2.0関連記事一覧)。

 こうして、Web 1.0とWeb 2.0は特に切れ目もなく、テクノロジーの進化や新しいサービスモデルの提供で変遷してきたわけだが、この先のWebの進化がもたらすのはどんな世界か? ここ数年、「Web3」や「Web 3.0」などと呼んでさかんに議論がなされているが、明確な定義がなされているわけではない。

 なお本稿では、「Web3」が次章で述べる特徴を持った概念を指し、「Web 3.0」が2006年にティム・バーナーズ=リー(Timothy John Berners-Lee)氏によって提唱されたセマンティックウェブ(Semantic Web)の特徴を持つ概念を指すとして、両呼称を区別する。

Web3で何が変わるのか?

 Web3とは何なのか。Web3に関する情報を横串で見ていくと、多くが、Web 2.0までの中央集権型(集中型)に対して分散型に変わることが大きな違いと説明している。それは重要な基盤技術であるブロックチェーンによってなされる進化の1つだという。

 例えば中央集権型のビジネスの典型である金融サービス。各国の中央銀行が発行した通貨を中心に民間のさまざまなサービスで成り立っているが、分散型になると大きく変わる。すでに暗号資産・仮想通貨やNFT(非代替性トークン)などとそれらを取り巻く金融システムが着々と出来つつあり、資金調達や融資などが可能なシステムが作られている。

 Web3における1つの形態として、本連載でも取り上げたメタバース(Metaverse)がよく話題に上がる(画面2関連記事進化し続けるメタバース、人間社会はどう変わるのか?)。

画面2:イベントや会議で3D VRのバーチャル空間を使う企業が増えている(関連記事「メタバース連続体が、企業が向き合うすべての技術トレンドにかかわってくる」─アクセンチュア

 メタバースの世界を予測した30年前のSF小説『Snow Crash』(日本語訳『スノウ・クラッシュ』では、米国という国家がフランチャイズ化された小さな仕組みになっていた。これが示唆するように、国家という形態も分散化されて変わっていくのだろうか。あるいは、中央集権型でサービスを提供しているグーグルやアマゾンなどはこの先どうなっていくのだろうか。

 いろいろ想像は広がるが、それはWeb3の概念が確たるものではないからだ。まずは、Web3の文脈で登場するテクノロジーと仕組みを見てみることにする。カギを握るテクノロジーは、何と言ってもブロックチェーンであり、さまざまな仕組みがこれに依存している。そこで注目すべきなのは、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)と呼ばれる組織体と運営のあり方だ(図1)。

図1:従来の会社組織とDAO(分散型自律組織)に基づく会社組織の違い(出典:クラウドエース「DAO とは 概要や仕組みを5分で入門」)
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 DAOには中央管理者が存在せず、参加メンバー投票によって意思決定などが民主的に行われる。ブロックチェーンを利用することでサービスは自動処理され、プロセスは透明化されて公開される。Web3の自律分散を象徴するような仕組みであり、暗号資産の発行やNFTの取引がDAOによって運営される。また、リアル店舗の運営にDAOを活用し、リアルな商品や暗号資産を扱う試みも始まっている。DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)と呼ばれるFinTechのサービスもDAOで運営されて広まりつつある。すでに数千ものDAOが存在しているという。

 Web 1.0からWeb 2.0への移行に切れ目がなかったように、この先のWeb3への移行もそうなるだろう。金融サービスも国家も、Web 2.0のキープレーヤーも、濃淡はあれども存続し続ける。国もサービス企業も分散型の新ビジネスなど当然、考えているだろうからだ。何らかの影響は受けるだろうが、それがどの程度なのか、だれも確たることは言えない。さまざまな試行が行われている段階であり、5年も経過すれば、様変わりしているかもしれない。クラウドもSNSも似たような段階を経て日常的に定着した。

●Next:日本政府がWeb3やメタバースに言及する理由

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