[木内里美の是正勧告]

進化し続けるメタバース、人間社会はどう変わるのか?

2022年4月21日(木)木内 里美

最近、メタバース(Metaverse)という言葉を聞かない日がない。ご存じ、3次元の仮想空間やそのサービスのことで、最新テクノロジーにも思えるが、“元ネタ”を遡ると、何と30年前のあるSF小説に行き当たる。ともあれ、筆者も実際にメタバースを体験してみたので、率直な感想とこの先の可能性について述べてみたい。

 ここ数年、メタバースという言葉をよく耳にするようになった。とりわけ、米Facebookが社名をMetaに変えて、メタバース事業に集中投資を宣言した2021年10月以降は加速されたように思う。例えば、大手コンサルティングファームがこぞって、「これからのビジネスにはメタバースの活用が必須になる」とばかり、売り込みを始めている。

 目立つのは、メタバースを提供するプラットフォーム事業者の動きである。グリーは2021年に新会社REALITYを設立して投資を始めた。クラスターは2017年に「cluster」をリリース以来、毎年機能進化をさせている。大手キャリアのNTTドコモも2022年3月に「XR World」をリリースした(画面1)。いずれもゲーム要素の強いコミュニケーションの仮想空間であり、アバターも漫画やアニメを想起させるものである。

画面1:NTTドコモのマルチデバイス型メタバース「XR World」(出典:NTTドコモ)
拡大画像表示

 ほかにも、2021年12月に一般社団法人日本メタバース協会が、2022年3月には一般社団法人Metaverse Japanが設立、さらに4月15日に日本デジタル空間経済連盟が発足した。また、マイクロソフトやグーグルなどハイパースケーラーのメタバース関連の動きも日々、途切れることがなく、実に賑やかだ。かのイーロン・マスク(Elon Musk)氏が仕掛けるTwitterの買収目的も、仮想世界でのコミュニケーションを考えているのかもしれない。

メタバースの概念はネット以前からあった!

写真1:『スノウ・クラッシュ』(ニール・スティーブンスン著、日暮雅通 訳、アスキー刊、1998年)

 メタバースとは何か。歴史を遡ると、1992年にニール・スティーブンスン(Neal Stephenson)氏が書いた『Snow Crash』(日本語訳『スノウ・クラッシュ』、写真1)というSF小説に帰着する。この小説に「Metaverse(メタヴァース)」という言葉が出てくる。何と30年前の小説だ。インターネットを身近にしたWebブラウザ「NCSA Mosaic」がリリースされたのが1993年であり、まだインターネットが一般には普及していない時代である。

 このスノウ・クラッシュがメタバースの起源なら読んでみるしかない。幸い、ブームにあやかって文庫本が今年再出版されたので購入してみた。上巻438ページ、下巻464ページもある、荒廃して見る影もない米国が舞台の長編SF小説だ。価値ある職業がピザの高速配達と音楽と映画とソフトウェア作りだけという設定も面白い。主人公のヒロはフリーランスでピザの高速配達をしていたが事故を起こして失職。一方ではすぐれたハッカーでもあって、情報売買で食べながらアバター技術を開発するという凄腕だ。

 この小説で描かれている“メタヴァース”はゴーグルを使い、リアリティのある仮想世界に入っていく。アバターも実体感があるものだった。映画の『マトリックス』や『竜とそばかすの姫』が描く肉体から解放されたバーチャルな世界とシンクロする。筆者が思うメタバースのイメージと合致していて、30年も前のSF小説にそれが書かれていたことは驚愕でもあった。

 スノウ・クラッシュの発刊後、2003年に始まったネットサービス「セカンドライフ(Second Life、注1)」もメタバースの走りと言われるが、今ではSNSコミュニティに顧客を奪われてかなり縮小した営業を強いられている。3D仮想空間でアバターが活動するなどの要素は備えているが、PCでの操作が前提であり、現在、語られているメタバースとはかなり異なるものだと思う。そう考えると、スノウ・クラッシュはやはり出色である

注1:「セカンドライフ」や当時の仮想空間サービスについては、2009年の記事になるが、関連記事セカンドライフ批評の裏で進化する3D仮想空間サービスの新潮流を参照されたい。

最新のメタバースの世界を体験してみた

 スノウ・クラッシュで展開されるゴーグルを使ったメタバースを自身でも体験したくなり、Metaが買収で自社製品にラインアップするヘッドマウントディスプレイ「Oculus Quest 2」(写真2)を購入してみた。前モデルは高性能PCとの接続が必要なPCVRタイプだったが、Quest 2は単体でもPCVRでも使え、価格も安くなった。

写真2:Metaの「Oculus Quest 2」。現在の実勢価格は128GBモデルで約3万6000円(出典:Meta)

 利用にはFacebookのアカウントが必須である。ヘッドマウンドの重量は503gあり、かなり重い感じがする。Wi-Fiに接続して、装着して電源を入れる。最初に「ガーディアン」という、自分が動く安全な範囲を設定する。設定などは両手に持つコントローラーで行う。設定が終わると突然、老舗旅館の大広間のようなホームと呼ばれる3D空間が現れる。その瞬間の没入感がすごく、ぐるりと見回しながら新鮮な感動を味わえた。現実社会から離れるには、このくらいの没入感が必要だろう。

 無料アプリでひととおりVR空間を体感し、いくつかの有料アプリも購入してみた。ほとんどがゲームかエンターテインメント系で、画像はまだ荒くリアリティ感に欠ける。動きの速いアプリだと酔ったようになって気持ちが悪い。それ以外に、動画配信のNetflixやAmazon Prime Videoを観ることもできる。大きな居間のようなところにホームシアターがあるシチュエーションで、寝ながら視聴できるのだ。集中して観るにはとてもいいが、筆者の場合、30分以上観続けるのはちょっと辛かった。

 メタバースで重要な役割を果たすアバターは、今のところ進化の途中という印象である。Facebookのアバターを3Dにしたようなもので、これから細かな表情などの機能も組み込んでいくらしい。Metaはビジネス向けにバーチャル空間でミーティングやプレゼンができる「Horizon Workrooms」(画面2)というワークプレイスも用意している。1人では体験できないのでまだ試せていないが、仲間を増やして実用性を検証してみたい。

画面2:Metaのメタバース型デジタルワークプレイス「Horizon Workrooms」(出典:Meta)

 コントローラーを使って操作するのはメタバースらしくなく、まだ大きなネックだ。今は手指の操作でできることは限られているが、やがてコントローラが不要になるだろうし、重いヘッドマウントも小型軽量化が進んで、眼鏡を耳に掛ける感覚で使えるようになるだろう。まだまだ発展途上ではあるものの、スノウ・クラッシュのメタバースに確実に向かって進化していることを確認できた。

●Next:メタバースの普及が我々の生活や仕事にもたらす影響

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
木内里美の是正勧告一覧へ
関連キーワード

メタバース / 3D / デジタルツイン / Second Life / アバター / デジタルワークプレイス / テレワーク / Facebook / Oculus / ウェアラブル / ワーケーション / 仮想通貨 / NFT / VR/AR/MR / エンターテインメント / ゲーム / ゲーミフィケーション

関連記事

Special

-PR-

進化し続けるメタバース、人間社会はどう変わるのか?最近、メタバース(Metaverse)という言葉を聞かない日がない。ご存じ、3次元の仮想空間やそのサービスのことで、最新テクノロジーにも思えるが、“元ネタ”を遡ると、何と30年前のあるSF小説に行き当たる。ともあれ、筆者も実際にメタバースを体験してみたので、率直な感想とこの先の可能性について述べてみたい。

PAGE TOP