[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

「こんな日本に誰がした!」崖っぷちニッポンの個人的考察

ユニチカ 情報システム部 シニアマネージャー 近藤寿和氏

2022年11月11日(金)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、ユニチカ 情報システム部 シニアマネージャーの近藤寿和氏によるオピニオンである。

 「こんな日本に誰がした!」は、何かの折にインプレス IT Leaders 編集主幹の田口潤氏から聞いたのですが、それからというもの、この言葉が耳から離れません。聞くことだけが得意の何だか頼りないリーダー、止まらない円安、貿易赤字の拡大などなど、ネガティブな要素の枚挙に暇がない今日の状況もあって日々、思い起こします。

 「2025年の崖」は経産省が情報システムの問題を指摘するのに使ったフレーズですが、システムに限らず、今の日本がまさに崖っぷちに立っているように思えてならないのです。何故、こんなことになったのか、どうしたら打開できるのかを私なりに考えてみます。

日本売りが止まらない─今の現状と課題は?

 2022年10月、為替レートはついに1ドル150円を突破し、1990年以来の円安になりました。つまり日本売りです。原因は米国との金利差と言われていますが、果たしてそれだけでしょうか?10月21日付けの日本経済新聞は、「ジリジリと円安が進んだのは、円売りの裏側に日本経済の構造的なもろさがあるためだ。日銀によると、日本の潜在成長率は32年前の4%台から足元で0%台前半にまで下がった」と書いています。では、そのような日本売りの状況に陥った構造的なもろさは、何が原因でしょうか?

 デジタル庁の統括官である村上敬亮氏は、「人口減少が大元にある」と指摘しました。2008年の1億2808万人をピークに2030年には1億2000万人を切って2050年は1億人台に、2100年は高位推計で7000万人台、中位推計なら5000万人台まで減少するという予測です。しかも高齢化率(65歳以上が全人口に占める比率)は、2021年の28.9%から2053年に38%台にまで増加していきます。

 人口増加が前提だった昭和時代の常識が通用しない流れの中で、需要と供給のバランスが変わり、需要が供給に合わせる経済から、供給が需要に合わせる経済へ変わっていくと村上氏は説きます。もう1つの側面として、30年前から日本の名目GDP、および1人当たりの名目GDPは、ほぼ横ばいです(図1・2)。同じ時期に米国のGDPは4倍、高度成長を遂げた中国は60倍になっています。

図1:日本の名目GDP(自国通貨)の推移 1980~2022年(出典:世界経済のネタ帳)
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図2:日本の1人当たりの名目GDP(自国通貨)の推移 1980~2022年(出典:世界経済のネタ帳)
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 GDPと労働生産性はほぼ連動していますので、この間、日本の労働生産性もほぼ横ばいに推移しています。賃金も労働生産性に連動しますから、必然的に賃金も横ばい。1993年には世界3位だった日本の1人当たりの名目GDPは、2021年に世界27位まで後退しています(図3)。

図3:1人当たり名目GDP 国連統計(出典:世界経済のネタ帳)
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 もう1つ、労働時間に関するユニークな考察を紹介しましょう。法政大学教授の小黒一正氏によるもので、日本の平均労働時間を、1990年を1.0として今も変わらないと仮定すると、2019年の1人当たりの実質GDPは日本1.58、米国1.55、英国1.52となり、両国を上回ります。ところが実際の平均労働時間に基づくと、日本は1.28で最下位になる──というものです(図4)。

図4:各国の1人当たりGDPの推移(出典:東京財団政策研究所、2022年2月15日)
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 どういうことかというと、今から約30年前、1990年の年間平均労働時間と2019年のそれは日本が2031時間→1558時間、米国が1764時間→1731時間、英国:1618時→1367時間と、日本の労働時間は大きく減少しました。労働生産性が上がらないまま、労働時間が減少すればGDPは伸びないのは当然ですし、いまや米国人の方がより長く働いています。昭和の時代は日本の労働生産性の低さを残業と根性でカバーしていたのが、その後の時短&働き方改革の時代においては通用しなくなったという事実が浮き彫りになったとも言えます。

 だからといって、今さら「残業しろ」は通用しませんし、令和の若者にはそっぽを向かれるだけでしょう。結局は根本的課題である労働生産性を上げていくしか、1人当たりのGDPを向上させていく術はないと考えられます。

失われた30年とは何だったのか?

 この30年で世界は大きく変わりました。インターネット環境が普及して以降、世界中の価値観が変化するデジタルの時代に入ったことは、誰も否定できないでしょう。GAFAに代表される米国の企業が世界に影響を与え、巨大なマーケットを背景にした中国がそれに続き、流れに乗るべくインドなどアジア諸国や北欧など欧州諸国、イスラエルなどもがんばっています。

 同じ時期、日本は何をしていたのでしょうか? ソニーの「ウォークマン」のような世界中の人々の生活に影響を与えるメガヒットはほとんど生み出せなかったと思います。バブル崩壊以降、日本企業の中に画期的な発想を受け入れ、育てる素地が衰えてきたからではないかと感じます。

 イノベーティブな何かを企画・開発したとしても、バブル崩壊後の冷え切ったビジネスマインドのため、リスクのある投資を控えるような風潮がそれです。バブル期の過剰な信用供与に懲りた金融機関の姿勢が企業を締め付け、それに追い打ちをかけた面があるかもしれません。日本全体が「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」状態になり、今も続いているように感じるのは私だけでしょうか?

 IT活用でも日本は遅れを取りました。一例がSAPに代表されるERPです。欧米企業がこぞって導入する中、日本でも会計などのERP化は進みました。しかし内実はビジネスの効率化に向かうのではなく、今までの業務に合わせた莫大なアドオン開発をベンダーに外注することに大枚を叩いてきました。ベンダーにとってもその方が儲かる面があったからです。

 そうしたことの結果として、日本独自の2次受け、3次受け、n次受けという多重下請けの人月商売が定着していったと考えることができます。この下請け構造も問題ですが、それ以上に企業の情報システム部が自社のビジネス構造を深く掘り下げる力を低下させてしまったこと、先輩たちが卒業していき、情シスに自社のビジネスへの高い見識を持った人材がきわめて少なくなったことに、危機感を感じます。

 人材の問題は経営層も含めた事業の現場も同じかもしれません。かつては新たなビジネスモデルをシステム部と一緒に構築しようという意欲を持った方々が当社でも多くいました。バブル崩壊以降には経営層がシステムを敬遠して情シスに丸投げし、情シスはベンダーに丸投げする傾向が強まった気がします。これはシステムの話ですが、前述したように本業の領域でも同じことが起きていたのかもしれません。

●Next:崖っぷちニッポンを立て直すために我々ができること

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