[架け橋 by CIO Lounge]

ITとISの相違から日本の方向性を考察する

三菱マテリアル CIO 板野則弘氏

2022年11月15日(火)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、三菱マテリアルのCIOで、CIO Loungeメンバーの板野則弘氏からのメッセージである。

 今夏、東京都美術館にて開催されたボストン美術館展(画面1)に行かれた読者はおられるでしょうか? 私は、10年ぶり6度目の里帰り展示となった『吉備大臣入唐絵巻』を目当てに行ってきました。日本にあれば間違いなく国宝となっていたはずの絵巻です。私の故郷、岡山県倉敷市(旧吉備郡)真備町出身で、2度の遣唐使を務めた実在の英雄、吉備真備(きびの まきび、695年~775年)公、の唐での奮戦ぶりを描いた傑作です。

画面1:東京都美術館で2022年夏に開催されたボストン美術館展のポスター(出典:東京都美術館)
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 遣唐使として唐に到着した吉備真備は高楼に幽閉され、数々の無理難題(文選、囲碁、野馬台詩)を課せられます。さまざまな術を用いて、それらを見事に解いたという逸話に基づいた痛快な内容でした。正座で空を飛ぶ“飛行の術”の場面などは、日本のマンガ文化の発祥になったとも言われます。国宝級の絵巻なのに、会場のあちこちから笑い声が聞こえるという(笑)、不思議な雰囲気の展示でもありました。

 この絵巻、吉備真備が活躍した時代から数百年後となる12世紀後半の平安時代に後白河院の下で製作されたと言われており、当時の日本人が進んだ大陸文化への憧れと劣等感、そして日本にも大陸に勝てる人やモノがあるという感情を持っていたことを感じとることができます。

 さて、本題です。私は絵巻を鑑賞しながら、日本のIT業界と欧米の関係を連想しました。今日、最新のITや関連規格の大半が欧米発であり、GAFAMに代表される巨大IT企業が高いシェアを有し、つまり日本のITはグローバルスタンダードに席巻されています。ITやデジタル関連のコンファレンスやセミナーなどでは、欧米は進んでいて日本は遅れているとの論調があふれています。

 確かに欧米だけではなく、海外から謙虚に学ぶべきこと、習得すべきことは数多あります。しかし過度に自虐的になることなく、日本が得意とする分野を認識し、世界に対して貢献できる何かに気づき、活かすことにも注力すべきではないでしょうか? その際に鍵になるのは“人”です。

 端的に、IT(Information Technology)とIS(Information System)は似て非なるものです。ITはあくまでもツール、手段に過ぎません。それに対してISは「IT+業務」なので、人のやりたいことや意思が必ず入っています。例えば、最近、製造業でもトレンドとなっているデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進には、以下の共通のプロセスがあるように思います。

①アナログ→デジタル化を進め、それまで見えなかったものを可視化する
②可視化によって問題の本質や新しいアイデアの“気づき”を起こす
③その解決策や新しいアイデアを実現・実装する

 以上の3ステップのプロセスです。私は①を“気づきの種”と呼んでいますが、これはある程度、機械的にできます。しかし、②と③の主役は“人”です。“気づく”ことはAI(ツール)では無理であり、人にしかできません。人であれば専門しかし家である必要はなく、誰でも気づく可能性を持っています。ツール(IT)だけでなく、それに人(国、企業ごとの特性)を組み合わせて活かすことができれば、自ずと日本の強みと世界の中で担うべき役割が見えてくるはずです。

●Next:グローバル人材とは「日本のことを知っている人」のこと

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