2019年12月1日、中国の武漢市で、世界で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が発生した。それからちょうど丸3年の2022年12月1日、筆者が抗原検査をしたところ、思いもよらずコロナ陽性反応が出た。10日間のコロナ療養生活を通じていろいろ分かったことを記しておく。
コロナに罹る前の筆者の行動を振り返ってみる。2022年11月28日、久しぶりに多人数が参加する企業のパーティーに招かれて参加した。翌29日は“肉の日”で、約束のあった仲間7人と焼肉の会食に出かけた。その店は満員で混雑し、大声で盛り上がるダンスタイムもあった。30日には事務所に出て2組の来客に対応した。昼までは何ともなかったが、午後には倦怠感を覚えてソファで横になったりしていた。
風邪の初期症状に似ていて、喉に違和感があり、朝の通勤途中にキオスクでのど飴を購入したことを覚えている。ともあれ夕方の来客を済ませて、その日はそそくさと帰宅したが、倦怠感はひどくなるばかりですぐに床に入った。少し熱もあった。もしかしたら感染したかもしれない、と心配がよぎった。
なんだかんだで10日間、コロナ感染の顛末
ともかく家族への感染は避けたい。自室から出ないで済むように、家族が帰る前に飲料水、着替え、アイスノン、抗原検査キット、解熱剤などの薬剤、消毒用アルコールなどを持ち込んで籠城体制に入った。翌日の12月1日に抗原検査をして陽性判定。「自分は感染しないだろう」と思い込んでいたが、ついに罹ってしまった。午後から38度を超える熱が出たが、他に症状はなく、夜には平熱になった。
しかし判定後の2日目に再び発熱し、39度くらいまで上がって節々の痛みが出てきた。鎮痛剤1錠を服用したら昏睡状態になり、6時間後に汗びっしょりになって目覚めたら熱は下がっていた。それでも着替えを済ませて、ひたすら横になっているしかない。家族と顔を合わせることはなく、2つあるトイレを個別に使い、キッチンにはインスタント食品を取りにいくぐらいで必要最小限にした。自室を出る時はアルコールで手指消毒をし、もちろんマスクを着けた。トイレも念のため毎回、殺菌消毒をした。
3日目、依然として倦怠感はあるものの、体温は平熱に。好天だったのでベランダで布団を干し、シーツを替えた。洗濯物はビニール袋に入れて室内に保管した。食欲は出てきたが、自分で調理して作れないし、家族は仕事なので食べるものが限られる。知人から「血栓防止に、みじん切りの玉ねぎを入れた納豆がよい」とアドバイスをもらい、差し入れしてもらって毎食食べていた。
4日目は日曜日。休みになった家族に食事を作ってもらい、やっと食事らしい食事を取れた。幸い、味覚障害や嗅覚障害は出ずに助かった。すでに喉の痛みや発熱などの症状はなくなり、自室に籠もっていることが辛い。体調もよいので滞っていた原稿を書き始めると、ほかにやることがないので集中でき、一気に筆が進んだ。
5日目、再び抗原検査をやってみた。結果が出るまでの15分は長かったが、結果は陰性。「ようやく脱出したか」と感慨深かった。来客にも事務所のアシスタントにも家族にも感染させていないこともわかって安堵した。しかし、まだウイルスが体内に残っていて人に感染させる可能性がある。さらに2日間巣篭もりし、8日目、ついに社会復帰した。久しぶりのシャワーは快適だった。倦怠感が残り、これが後遺症なのかもしれないが、それは10日間ほど続いて正常に戻った。
患者のことを考えていない制度設計とシステム
自宅での療養中、感染症法に基づく発生届について、いろいろ調べてみた。この届は行政支援を受けるのに必要で、医療機関が作成して保健所に送られてくる。まず地域のWebサイトを開くと、自主検査で陽性が判明した場合、65歳未満であれば発生届は不要とあり、ネットなどで陽性者登録センターに登録して必要な支援を受けられる(図1)。
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しかし65歳以上だと発生届が必要で発熱外来に行くか、かかりつけ医に連絡しなければならない。ウイルスを抱えている状態で公共交通機関に乗って発熱外来に行くか? 体調面でも熱もあるので出かける気にはならない。一方、筆者のかかりつけ医は総合病院の医師である。たいした症状でもないのに多忙極まりない医師に電話して発生届を発行してもらうのは気が進まない。
そこで陽性者登録センターに電話してみた。というのも重症化リスクは個人差が大きく、単純に年齢で線引きできない。軽症なら65歳未満と同様に陽性者登録センターに登録して健康観察すればよいのでは? と思ったからだ。
だが、電話に出た担当者は「規則にあるとおりで医療機関から発生届がないと保健所を介した支援も受けられない」と言う。どうやら65歳以上はネットを使って登録できないだろうと一義的に決めつけている様子もあり、結果、発生届を無視するしかなかった。
こんなことだから電子行政が進まないのだ。たとえ本人ができないとしても家族や親族が代理登録すれば済むはずなのに、明確なエビデンスもなく年齢で分けているお粗末さに呆れてしまった。
筆者は発生届を断念したが、利点は少なくない。65歳未満なら陽性者登録センターにネット登録し、配食やパルスオキシメーターの貸与やHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)に登録して健康観察を受けられる(図2)。65歳以上は軽症でも無症状でも、医療機関を通じないと一切の住民サービスが受けられない。医療機関や行政にとっての都合かどうかはさておき、この仕組みは感染患者本位でないことは、はっきりしている。
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仕組みを詳しく知るために、陽性者登録センターへの登録を試みたが、これが大変面倒だった。メールアドレスを送ってサイトURLを送ってもらい、諸々の同意をした上で本人の属性情報、本人確認の身分証明書のアップロード、抗原検査キットの品名や販売会社と陽性の写真のアップロード、症状、重症化リスク、ワクチン接種状況、受けたい支援などを入力しなければならない。相変わらずのインタフェースの悪い行政システムを使わねばならない。
結局登録はできなかったのだが、発熱している患者が年齢制限なく容易に登録できるように作れないものか? 支援が必要な患者に求められるのは、迅速な処理と対応だ。自宅に居ながらにして、それを簡易にできるようにしてこそデジタル行政だろう。
ここでふと、塩野七生さんの『ローマ人の物語』を書き終えたときの言葉を思い出した。「亡国の悲劇とは、人材が欠乏するから起こるのではなく、人材はいてもそれを使いこなすメカニズムが機能しなくなるから起きるのだ」──。衰退しつづける日本が滅びないことを切に願う。
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