DXは世界的な潮流だが、推し進めるほどに膨大なデータが生まれ、それと格闘することになる。物量だけではなく、コンプライアンス・セキュリティ・ガバナンスへの対応も必要となれば、まさにデータのラビリンス(迷宮)状態といえるだろう。いかにしてそこから脱却すればいいのか? 3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションに、日本マイクロソフトの大谷健氏と、ベネッセホールディングスの國吉啓介氏が登壇。データラビリンスからの脱却を目指したマイクロソフトのデータマネジメント変革の取り組みと、データ改革を推進している先進企業としてベネッセグループの事例を解説した。
マイクロソフトはデータラビリンス(迷宮)からどう脱却したのか
1975年に設立され、100カ国20万人以上の社員が日々膨大なデータを活用しているマイクロソフト。ただ、迅速かつ高度なデータ分析ニーズを満たすため、データ利用環境は複雑化の一途を辿っていた。大谷氏はその実態について次のように振り返る。
「100を超える多様なデータソース、100以上の事業部、15以上のIT部門のシステムが存在していました。分析精度や信憑性に影響を及ぼしかねず、コンプライアンス・セキュリティ・ガバナンスへの対応も怠ることはできない、まさにデータラビリンス(迷宮)といえる状況でした(図1)」(大谷氏)。
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こうした状態から脱却するため、2019年から取り組みを本格化させたのが「データから価値を生み出す」ことと「データを管理する」ことの両立を目指したデータ戦略の策定だった。
「データの価値創造を民主化すること、責任あるデータ基盤を構築することの2つに取り組みました。さまざまなユーザーにデータで価値を与えるユースケースを1つひとつリストアップしました。また、アナリティクスの基盤、データ統合、ガバナンスの基盤を整備し、責任を持ってデータを管理・民主化できる基盤を提供することを目指しました」(大谷氏)。
現在、データ統合の状況はダッシュボードで可視化でき、データソースやデータサイズが一目瞭然で把握できるようになっている。データ統合におけるポイントは2つあったという。
「1つめは、ハイブリッドでマルチクラウドのデータソースがとれること。2つめは、オープンで統合されたデータの器である“エンタープライズデータレイクハウス”の構築です。データレイクハウスにさまざまなデータソースを統合整理して蓄積することで、AIやBIを使ったデータ活用が可能になりました」(大谷氏)。
自社製品を活用して、責任あるデータ基盤によるデータ価値創造を実践
日本マイクロソフトでは「責任のあるデータ変革の民主化」を実現するために、データカタログ機能などを提供する自社製品Microsoft Purviewを活用した。
「Purviewを自分たちで開発し、自分たちで使って改善してきた経緯があります。要件は大きく3つありました。1つめがさまざまなデータソースからデータがとれること。マルチクラウド、レガシーシステム、SaaSアプリケーションなどからデータを取得できることが必要でした。2つめが上流から下流までエンドツーエンドでトレースができること。データを加工してダッシュボードで見せられるようにするまでの流れをすべてトレースする必要がありました。3つめがPCのデータも含めてデータに機密ラベルを付けられること。これはMicrosoft Information Protectionを活用しました」(大谷氏)。
Purviewを活用すると、データのヘルススコアカードを作ることができる。いろいろなドメイン(事業部)にあるデータがいまどのような環境にあるか、ガバナンスの状態にあるかを示すことができる(図2)。
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「ガバナンスの機能を自動化することで、ほとんどのヘルススコアを緑色(安全)にすることができています。どこにリスクがあるのかがわかります。また、自動化されるのでデータガバナンスのレベルを下げることなく取り組みを進めることができます」(大谷氏)。
2019年から2022年までの4年間で、責任あるデータ基盤によるデータ価値創造は、大きな成果を上げた。
「45以上のドメインチームが革新的なデータプロダクトとアプリケーションを構築しました。また、データインフラからデータ価値創造へのデータ人材が拡大しました。さらに、データ資産は1PBから14.5PBに増加し、標準化されたデータマネジメントとガバナンスも実現しました。管理やコスト面でも、データ複製は60%削減し、年間のインフラコストは2000〜3000万ドル削減しました」(大谷氏)。
「よく生きる」というメッセージのもとDXを推進するベネッセグループ
続いて、ベネッセホールディングスの國吉氏が登壇し、同社のデータマネジメント変革の取り組み事例を紹介した。
「ベネッセグループでは、『よく生きる』というメッセージのもと、チャレンジすることをコンセプトに活動しています。生活から介護までさまざまな領域で事業を展開しています。例えば、教育分野では、学生向けの『進研ゼミ』から社会人向けの『Udemy』まで、デジタルを使った学びを生み出しています。DXについては、『常に、お客様にとって、最良の商品・サービスを提供し続ける』ために、サービス・ビジネスモデルをスピードとアジリティを持って変革できる"組織力の向上"が大切だと思っています」(國吉氏)。
DX戦略を推進するうえでポイントになるのが、事業ごとのフェーズに合わせたDX戦略を行いながら、組織全体のDX能力を高め続けることだ。
「デジタル活用の進展度やディスラプション状況は事業ごとに異なります。そこで事業フェーズにあわせたDX推進と、組織のDX能力向上を相互にスパイラルアップしていくよう取り組むことで、DXを加速させようとしています」(國吉氏)。
また、DXを「デジタルシフト」「インテグレーション」「ディスラプション」という大きく3つのフェーズに分け、事業状況に合わせたリアリティのある活動を推進している。
デジタルシフトは、サービス・業務プロセスを段階的にデジタル化し、品質・生産性向上を行う取り組みだ。インテグレーションはオフライン・オンラインなど手段を問わず、お客様本位でのサービスを提供すること。ディスラプションは将来の市場環境変化や破壊的イノベーションを見据え、新モデルを開発することとなる。
「データ利活用の視点では、価値創出、データ環境整備、人材/組織成長という3つをキーにDXを推進しています。問いを立て、データを通して、お客様の良く生きる支援、社会の構造的課題解決を推進しています(図3)」(國吉氏)。
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切り口を見つけてAIで仕組み化し、迷宮化しがちな業務プロセスとデータ環境を標準化
ベネッセグループのDX取り組み事例としては、教育事業における成績アップ支援がある。学習行動や学習内容の関連性を分析し、つまずきの原因と予防によって成績アップにつなげている。また、AIを活用して1人ひとりに個別最適化する学習サービスを提供し、「個別ニガテ攻略」や「学力の伸びしろの予測」など、学習者主体の学びを支援する取り組みも進める。
介護事業では、腕利き介護士のスキル実践を可能にする「マジ神AI」を構築し、科学的介護によるQOL向上を目指す取り組みを進めている。
「多くの知見とスキルを持つ介護士を『マジ神』と呼んでいます。そうしたマジ神の暗黙知をAIの力を借りて可視化し、幅広い介護士が実践できるようにしています。例えば、BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)の要因を予測し、幅広い介護士がその情報を利用することで、マジ神に近い判断ができるようにシステムがサポートします」(國吉氏)。
仕組みとしては、マジ神の知見や観点をデータ化し、センサーデータなどさまざまなデータと組み合わせて、AIモデルを作っている。またAIが分析した結果を、ダッシュボードの形で幅広い介護士が確認できるようにすることで、最適なケアを考えるために活かしている。
「こうしたことを実現するために業務プロセスとデータ環境を磨き、新たな価値創出の切り口をみつけるとともに、事業効率を高め続けています。切り口を見つけてAIで仕組み化し、迷宮化しがちな業務プロセスとデータ環境を標準化しながら、スピードと柔軟性をもって改善し続けられるアーキテクチャに、段階的に転換しています」(國吉氏)。
システム基盤としては、例えば、マジ神AIの運用については、Azureを運用基盤にして、MLOps(Machine Learning Operations)による運用を内製で実現している。サービスの拡大とともにデータ環境を段階的に進化させていく方針だ(図4)。また、グループ全体でDXを推進する「DIP」と、社外との共創のためのファンド「DIF」を設立し、成長を加速させている。
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最後に、日本マイクロソフトの大谷氏は「データ変革は、テクノロジーのビッグバンではなく、人と文化のチェンジマネジメントです。取り組みの推進者は、組織のリーダーシップの力学を理解し、組織の橋渡し役になることが重要です」と述べ、セッションを締めくくった。
●お問い合わせ先
日本マイクロソフト株式会社
URL:https://www.microsoft.com/ja-jp/biz/find-new-value-on-azure
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