DXのカギは標準化=デファクトスタンダードにあり!
2023年4月6日(木)CIO Lounge
日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge正会員メンバーで積水化学工業 デジタル変革推進部 情報システムグループ長 原和哉氏からのメッセージである。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が話題になって5年ほどが経ちました。その定義や意味は企業や人によってさまざまですが、筆者は大きく2つに分類できると考えています。1つはデータとデジタル技術を用いた事業変革や新規事業の創出、もう1つはデジタル化による業務改革です。前者についてはいずれ書かせていただくとして、今回は後者の業務改革に焦点を合わせます。
業務改革の第一歩は、業務処理の自動化や省人化、あるいは間接費の削減・効率化を達成することでしょう。その延長線上にマーケティングの高度化やサプライチェーンの短縮や高度化、CRMなど営業革新もあります。これらの結果をコミットするDXを経営は望んでいます。一方で実践するとなると、ERP導入やクラウド化、BIやSFAツールの導入といったシステム導入の話になりがちです。その結果、「総論賛成・各論反対」という、何とも厄介な状況が発生してしまいます。
少し具体的に説明しましょう。役員会などでDX案件を決議し、錦の御旗が立てられると「総論賛成」の土壌が出来上がります。この段階で表立って反対する人は当然、いません。次にDX部門やIT部門がリードして、あるいは特命のチームが設置されて、各種プロジェクトがスタートします。このプロジェクトのステアリングコミッティでも「総論賛成」が崩れることはないでしょう。
厄介な状況はこの後、つまりシステム導入や業務プロセス変更などの現場に影響の出る内容を進めようとした時に発生します。現場説明会では役員会の決議=錦の御旗を話すため、反対意見はあまり出ませんが、担当者レベルと具体的な話を始めると「そんな話は聞いてない」「私の権限では決められません」「新しいやり方では効率が落ちる」「追加のコスト負担はできない・したくない」といった、「各論反対」のオンパレードになります。
総論賛成・各論反対をどう乗り越える?
このことはCIO/IT部門に在籍する方なら、だれしも経験があるでしょう。「ではどうするか?」ですが、筆者は「標準化」が切り札になるし、するべきだと強く思います(図1)。標準化のよいところは、「これが標準(スタンダード)」と言い切れることです。例えば欧米企業(事業)を買収した際、相手企業が最初に聞いてくることが「御社のポリシーは? ルールは? 標準システムは?」といった内容です。標準化が進んでいれば、当然ポリシーやルールに則った標準システムが構築されているので、「当社の標準はXXXXです。すべてをこれに合わせてください」と言うことができます。
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つまり「当社のポリシーはXXXXです。ルールはXXXXです。YYYシステムはXXXXです」のように言い切れるので、せっかくのM&Aが出だしで躓くことを避けられます。逆にこれができないと「標準がないならこちらのやり方でいく」、「当社(事業)やり方の方が優れているので、このままで」といった状況になります。M&Aを担当するIT部門の人が毅然とした態度で相手企業に臨み、結果を出すための強い武器が「標準化」なのです。
このことはM&Aに限りません。「総論賛成、各論反対」を乗り切るには標準化が大事です。標準化を進めるにあたって、どのようなKPIを設定するかはプロジェクトによりさまざまですが、成功に導くために最もよい指標が「デファクトスタンダード(De Facto Standard)」だと思います。これは「事実上の標準」という意味の言葉で、「De Facto」はラテン語の「事実上の」が語源となっています。
「事実上の標準」ですから公的な標準化機関から認証を受けるのではなく、市場における競合他社との競争によって業界標準として認められるようになったものを指します。一般的には50%以上のシェアを獲得できれば「デファクトスタンダード」になった
と言えるでしょう。そこで重要になるのが、シェア50%を超えるまでの設計をどれだけ緻密にできるかと、その達成に全力疾走するという2点です。
●Next:こうやって標準化プロジェクトを成功させた!
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