[架け橋 by CIO Lounge]

ダイナミックケイパビリティの高い組織への変革とITの役割

小野薬品工業 デジタル・IT戦略推進本部長 沼田 智氏

2023年4月17日(月)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge正会員メンバーで小野薬品工業 デジタル・IT戦略推進本部長の沼田智氏からのメッセージである。

 私は34年間大手製薬企業で主にIT機能に携わってきました。よく云われる失われた30年とちょうど重なる時期でした。今では1つの会社に長く勤めることは珍しくなりましたが、私の場合は会社がこの間、特に後半の15年ほどの間に大きなM&Aなどを経ながらまったく異なる会社に変わっていく過程をその渦中で経験したことから、同じ会社に居ながら転職を経験させてもらったようなものです。

 しかも、その変わりようは、経営資源をグローバルに合理的に最適化したモデルにもとづき、意思決定のあり方やビジネスに求められる知識やスキル、プロセスのグローバルスタンダードへの対応などあらゆる事柄に及びます。この観点からは日本企業の中では飛びぬけた変革をやってのけたグローバル企業であると思います。

 渦中にいたときには抵抗感や違和感を持ったことも少なくありませんでしたが、強烈な変革を体験したからこそ、コントラストとして多くを学ぶことができました。この会社からいったん離れ、自らの経験を見つめ直す時間を経て、現在は本格的にグローバル展開を進めつつある同業の中堅企業で再び最前線に立ち変革を進めています。

 幸運なことに現職の会社はすでに出来上がった構造の変革ではなく、今から新たな構造を作ろうとしているフェーズにあります。私としては経営や事業と一体となって新たな構造づくりという変革に大きく貢献できる絶好の機会であり、デジタル・ITによる企業変革を中期的な戦略に据えて取り組んでいます。

 この取り組みに際して、私が変革の基本的な考え方にしているのは、「ダイナミックケイパビリティ(Dynamic Capabilities)」が高い組織への変革です。ダイナミックケイパビリティは1997年に米カリフォルニア大学教授で経営学者のデヴィッド・J.ティース(David John Teece)らにより提唱されたものです。その論文「Dynamic Capabilities and Strategic Management」では、次のように説明されています(以下引用)。

We define dynamic capabilities as the firm’s ability to integrate, build, and reconfigure internal and external competences to address rapidly changing environments.
(ダイナミックケイパビリティとは、急速に変化する環境に対応するために、内部および外部のコンピタンスを統合、構築、再構成する企業の能力であると定義する)

 提唱は約25年前とかなり前ですが、VUCAの時代、つまりDX推進を求められる今日にこそ活きるものだと思います。

 ダイナミックケイパビリティには、Sensing(感知)、Seizing(捕捉)、Transforming(変容)という3つの要素があります(図1)。Sensingは、社内外の情報・データの分析を通し、ビジネス上の課題や新たな機会を適時に的確に把握・特定すること。Seizingは把握・特定された課題や機会を踏まえ、ビジネスをどのように変えていくかをデザインすること。そしてTransformingは、デザインされた新たなビジネス構造に向け、社内外のリソース・組織を再編成することです。

図1:ダイナミックケイパビリティの3要素と支える基盤
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 Sensingでは社内外の情報・データ分析を行うことから、いわゆる部門の壁を超えた情報共有やコラボレーションを日常的なものとするための変革に取り組んでいます。必要なデータ分析活用環境の整備と並行して、いくつかのユースケースでの実例を示しながら啓蒙を進めています。

 SeizingおよびTransformingについては、新しいビジネスをデザインし、実際に変革していくわけですが、この時、コストが問題になります。その中でも大きいのはビジネスと表裏一体であるITの変更に要するコストです。これが複雑だと変更に時間やコストがかかり、ビジネス上の価値が薄まったり、場合によってはできないことになってしまいます。

 クイックかつフレキシブルに変化に追従し、変革できるようにするためには、Fit to Standard(標準への準拠)の徹底が必要ですが、利点はそれだけにとどまりません。Fit to Standardを実践すればそれぞれのソリューションの進化を享受しやすくなり、会社の枠を超えたエコシステムとしてのつながりも容易になります。こうした点を説明することにより経営層の支援を得つつIT部門のスタンスも変え、具体的なプロジェクトで現場への浸透を図っています。

●Next:組織変革にあたって、もう1つ重要なこと

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