大和ハウスが「DXアニュアルレポート」を発行する理由
2023年7月24日(月)CIO Lounge
日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、大和ハウス工業 執行役員 情報システム部門担当でCIO Lounge正会員メンバーの松山竜蔵氏からのメッセージである。
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大和ハウス工業は、2016年度から「ITアニュアルレポート」を発行しています。当初は社内や関係者向けに資料として配付していましたが、2020年度版はIR情報として初めてコーポレートサイトに掲載しました。2021年版ではそれまでの印刷を前提としたPDFから、ブラウザでの閲覧を意識したWebサイト(HTML)形式に衣替えし、名称も「DXアニュアルレポート」にしました(画面1)。現在は2023年版の制作に取りかかっています。
手前味噌ですが、「ここまで載せていいの?」と思うほど、当社におけるDXの取り組みを詳細に公開しています。当然、これを作るには一定の予算と人員を投下しなければなりません。どうしてそこまでしてDXアニュアルレポートを作っているのでしょうか? よく聞かれることでもありますので、ここでその理由を示しましょう。
DXがつくる企業価値
まず何よりも大きな理由は、当社がどのようにDXに取り組んでいるかをステークホルダーに知ってもらう、そのことが当社の企業価値(端的には株価)を高めることにつながると考えるからです。ある企業の事業基盤やビジネスモデル、現在の稼ぐ力を知りたいときには「統合報告書」を読み込めばいいでしょう。その企業の社会的な価値、持続可能性については「サスティナビリティレポート」を読めばいいのかもしれません。
しかしVUCAの時代と言われ、デジタルテクノロジーが予想もできない激しい環境変化をもたらす状況の中、これらだけで企業が生き残り、成長できるのかは十分にわからないのではないでしょうか。いかにデジタル変革に取り組んでいるか、その内容が支持できるものであるかどうかが、ある企業に投資するかどうかの判断に必要なのではないか? こう考えて、DXアニュアルレポートを制作しているわけです。
もちろん統合報告書などにDXの取り組みを記載すればそれで十分という考え方もあるでしょう。しかし当社の場合、DXの取り組みは独立したレポートにするだけの情報量がありますし、その形でお伝えする価値があると考えて、統合報告書、サスティナビリティレポート、DXアニュアルレポートの3つのレポートを発行しています。
DXガバナンス機能の一部
第2の理由はDXの取り組みを毎年、とりまとめることの効果です。DXのアンチパターンの1つに、さまざまなデジタル施策をバラまいて統制の取れないものになってしまうことがあります。数多くの課題があり、さまざまな部門や部署が業務改善を目指す会社組織にあって、多くのデジタル施策を打つことをやめることは難しく、そのため数多くの施策に横串を刺していく活動がIT部門に求められます。
一方でIT施策がIT部門のためのもののように理解されてしまい、「当社のIT部門はわかってない」と、CEOやその他のCXOから評価されてしまうアンチパターンもあるように思います。そうではなく、さまざまなIT/デジタル施策がパーパスからドリルダウンしていること、中長期計画や事業の方向性と整合した形で存在していること、などを理解してもらえばDXを推進しやすくなるはずです。
当社にもIT部門と別にDX専任部門があります。DXアニュアルレポートは両部門が協力して制作しており、それゆえに相互理解につながる効果があります。また事業部門が独自に実施するデジタル施策も同レポートに掲載することで、当社の公式なDX施策であると位置づけます。こうして、ともすればバラバラになりがちなデジタル施策を手の内に納めていくことも含め、DXに関する情報を一体感を持てるように共有する──。同レポートは、いわば「DXガバナンス」の機能の一部なのです。
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