筆者には大きな心配を抱いている日本の実態がいくつかある。なかなか上向かないIT/デジタル活用力、人材を育成できない教育問題、それらの延長上にある国力や経済の衰退などである。そんなことの1つに、以前にも取り上げた食料自給率の問題など健康に直結する「食」に関する問題がある。
日本では1500種類以上の食品添加物が使われている
「食」に関する問題には、化学肥料や農薬、除草剤、ホルモン剤、抗生物質などを大量に使っている農業・畜産・養殖水産など食材への懸念もあるが、ここでは加工食品に加えられている膨大な量の食品添加物に焦点を当ててみたい。あえて物議を醸したいわけではないが、日本の食品添加物の基準は甘いと思うからだ。
日本では承認されている添加物の種類が多いし、海外では禁止されている添加物も容認されている。特に加工食品で安いもの、日持ちするもの、色鮮やかなもの、大量に生産できるものには多くの添加物が使われている。医薬品では当たり前の「配合禁忌」や「併用禁忌」も添加物にはない。健康への影響について添加物ごとのマウスでの実験検証はあっても、配合または併用した場合の作用の検証はまったくないのだ。
一方で、食品添加物を気にしている人は昔から少なくない。加工食品の添加物はルールに従って表示することが義務づけられ、商品の裏側に貼られたラベルには原材名として食材に続いて食品添加物が記載されている。スーパーに買い物に行けば、このラベルを見て商品を選別している人を1人や2人は見かけるだろう。ラベルを見ても添加物が多いかどうかくらいしか分からないはずだが、それでも気になるのだろう(図1)。
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日本で使用が認められている食品添加物には指定添加物と既存添加物、天然香料、一般飲食物添加物がある。指定添加物は、食品衛生法に基づき厚生労働大臣が指定した添加物で、現在457種類が指定されている。既存添加物は長期間使用されてきた天然添加物で357種類ある。天然香料は動植物から得られる香りつけのために使われる添加物で、650種類ほどある。一般飲食物添加物は飲食に供されているものを添加物として使用するもので、これも100種類ほどある。合わせると1500種類以上の食品添加物が、さまざまな用途で特に加工食品に用いられている。
どのような添加物を使用しているかは、法で定められた表示基準に基づいて表示することになっている。表示は原材料の後に/で区切って書かれたり、添加物として書かれていたり、改行で表示されていたりする。使用している添加物の重量が多い順に表示され、原則は物質名で表示する。後で述べるが、実は表示の運用に問題があり、何が使われているかは容易にはわからない。
食品添加物は食品の生産と供給に必須のもの
もちろん、すべての食品添加物が悪いわけではない。添加物がないと加工食品の生産や流通が止まり、消費者に供給できなくなってしまう。食品にとって添加物はむしろ必須のものだ。日本ではどこに行っても食品がある。コンビニにはたくさんの加工食品が並んでいるし、スーパーにも惣菜や弁当や加工食品が所狭しというほどに並んでいる。交通機関内でも駅弁や空弁、パンやサンドイッチが食べられる。菓子やスナックも豊富である。
山間部でも移動販売車などで加工食品が手に入る。飲食店も多く、食べることに不自由しない。しかも為替の影響から値上がりしていると言っても、価格は欧米諸国よりはるかに安い。このように食品の流通を支えているのが添加物だといっても過言ではない。添加物がなかったら美味しいと感じるものや食感がよいものを安く大量に作ることはできない。
そもそも添加物なしには作れない食品もある。豆腐は豆乳ににがりを加えて固化するが、にがりは塩化マグネシウムという添加物である。蒟蒻を固めるのに使う水酸化カルシウムも添加物である。添加物なしには、美味しいすき焼きもおでんも楽しめない。
これらとは違うが、保存料や酸化防止剤、防かび剤と表示されている添加物は、賞味期限や消費期限を延ばして流通しやすくしているし、早期の腐敗を防いでいるとも言える。大量に安く生産し、食品を提供するために食品添加物が必須であることはだれでも理解できる。それでも気にしている人が多いのは“隠れた裏側”があるからだ。
●Next:食品添加物への対し方、8つのポイント
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