韓国・ソウルを訪れ、直にデジタル社会の発達ぶりに触れた。電子政府化においては韓国が2001年に法制化し10年足らずで実現したのに対し、日本は24年経った現在も遅れをとっている。その背景には何があり、日本がデジタル社会への立ち遅れを解消するには、何をなすべきなのか。
コロナ禍の3年間を挟んでしばらく韓国を訪問することもなかったが、渡航規制が全廃されたこともあって韓国料理を楽しむために久しぶりにソウルを訪問した。韓国通の友人から「便利なアプリがあるから使ってみるといい」と教えてもらい、スマートフォンに入れていった。「NAVERマップ」と「Papago」である。共に、LINEの開発に携わった韓国NAVER(ネイバー)が提供するアプリで、NAVERマップはGoogleマップのような地図アプリ、Papagoは翻訳アプリだ。
2023年にウズベキスタンに行ったときにもトランジットで降りた仁川(インチョン)国際空港。洗練されたハブ空港になっており、成田や羽田を凌ぐ。仁川空港からソウル市内までは鉄道でもリムジンバスでも1時間20分程度かかるので、ロケーションは成田と似たり寄ったりだろう。
到着後、すぐにホテルまでのルートをNAVERマップで検索。日本からの観光客を意識しており、日本語で不自由なく検索できる。日本で言えば、訪日外国人観光客向けの「Japan Travel by NAVITIME」に似ている。
ソウルに行って肌身に感じたデジタル活用の違い
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リムジンバスに乗ろうとNAVERマップで検索してみた。目的地までのルートと、乗るべきバスの番号とバス停の番号が示され、バス停までのルートや何分後に発車するか、料金は幾らかがわかる。Googleマップの場合、韓国ではなぜか徒歩ルートが示されず、徒歩圏のルート検索には使えないことがわかった。
韓国内ではNAVERマップはきわめて便利だ。地下鉄の乗り換え案内もバスの乗り継ぎ案内もわかりやすい。友人からソウル最大規模の京東市場に行くことを勧められたので、参鶏湯の老舗でランチョンを済ませた後、地下鉄で向かった。徒歩5分の景福宮(キョンボックン)駅から地下鉄3号線に乗り、鐘路3街(チョンノサムガ)駅で1号線に乗り換え、祭基洞(チェギドン)駅で降りて徒歩9分と示された。とてもわかりやすく迷うことなく市場に着けた(画面1)。
韓国の地下鉄に乗るにはチャージができる交通系カード「T-Money」があるが、何回も乗るわけではないので1回ごとのカードを購入した。運賃は10kmまで1500ウォン(約170円)。乗車カードの保証金500ウォンを加えて2000ウォンで買う。改札を出たところに保証金の返却機があって、カードを入れると回収されて500ウォンが戻ってくる仕組みだ。京東市場は約10万㎡と言われる規模で、肉や魚や野菜が所狭しと並んでいて活気がある。市場内にはディープな飲食店がいくつもあり、本当のローカルフードが味わえそうだ。
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街中の飲食店に入ると、日本でもよく見かけるタブレット型の注文端末が置いてある。グローバル/日本語対応なのでだれでも簡単に注文できる。紙のメニューしか置いていない店もあるが、上述の翻訳アプリのPapagoを使えば問題はない。かざして写真を撮ると翻訳されるし、自動通訳による音声での対話もできる(画面2)。
こうして、たった2つの定番アプリを使うだけで、韓国での行動の自由度が格段に向上する。迷うことのないインタフェースはストレスがない。デジタルが社会システムに組み込まれている感がある。
この感覚が電子行政まで浸透している韓国ではデジタル社会が現実になっている。
電子政府における日韓の違いをレビューする
韓国も日本も電子政府を目指して活動を始めたのは2001年である。韓国は2001年に電子政府法を立法し、日本は同年にIT基本法を定めたが、電子政府への取り組みには大きな違いがあった。韓国は電子政府を強く意識し、その基本的な枠組みを示していた。日本は情報化社会という曖昧な目標設定にとどまった。
その結果、韓国はその後ほぼ10年で電子政府・電子自治体の姿を作り上げた(関連記事:国民への浸透・定着からインフラ整備まで─世界1位の韓国に学ぶ電子政府成功の勘所)。日本は、あれから24年が経過しても自治体のシステムは統一されずにバラバラである。国連による電子政府ランキング調査の2022年版では、デンマークがトップでフィンランド、韓国、ニュージーランドと続き、日本は14位だった。この評価はオンラインサービス(OSI)、人材能力(HCI)、通信インフラ(TII)の3つの指標から成っている。日本は特に人材能力面での評価が低い。
このような状況を打破しようと、2021年にデジタル庁が創設された。目的とするところは「デジタル社会の推進」であって、電子政府の構築は明確に謳っていない。ここに韓国が進めてきたデジタル政策と大きな違いがある。ちなみにランキング1位のデンマークはすべての評価においてポイントが高く、公共サービスがワンストップで提供される「Borger.dk」ポータルなど電子政府先進国であるばかりでなく、子供たちのデジタル教育を通じて国民のリテラシーが高く、オープンデータの活用や官民エコサイクルも活発であると聞く。
基盤となっているのは、強制力をもって普及された個人番号、個人番号に紐づいた電子私書箱、それからネット口座を持つことが義務付けられているプラットフォームにある。日本のマイナンバーに当たる「MitID」(旧NemID)というセキュリティが確保されたデジタルIDと、UXデザインを最重視して構築されたシステムによって快適なデジタル社会を形成しているようだ。
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