[ユーザー事例]

システムの使い勝手が業務を変える─代理店業務支援で三井住友海上が実践したこと

デジタルアダプションで営業支援システムの利用実態を分析

2024年9月24日(火)愛甲 峻(IT Leaders編集部)

三井住友海上火災保険(本社:東京都千代田区)は、保険代理店向けの営業支援システム「MS1 Brain」の機能改善をデジタルアダプションのアプローチで取り組んでいる。採用したのはPendo.io Japanのデジタルアダプションツールで、その導入・活用の実際と得られた効果について、機能改善プロジェクトに携わった三井住友海上のキーパーソンが詳らかにした。2024年6月13日開催の「AI×プロダクトデータフォーラム 2024」(主催:NEC、Pendo.io Japan)における同社セッションの内容を紹介する。

 MS&ADインシュアランス グループの三井住友海上火災保険は、国内に2万9107店(2024年3月31日時点)の保険代理店を展開する国内4大損保の1社である。同社は代理店の営業活動をサポートすべく、AIを活用して顧客ごとに最適な提案を行うための営業支援システム「MS1 Brain」を提供している。

 MS1 Brainは、保険料計算や申込書作成などの機能を持つ基幹業務システム「MS1」と同期・連携するシステムで、2020年2月より稼働している(関連記事三井住友海上、代理店支援システムにAIロボットを搭載、顧客への適切な提案を可能に)。

 MS1 Brainの狙いとして、(1)顧客の体験価値の向上、(2)代理店の業務高度化/効率化、(3)募集人(保険商品営業担当者)の役割の高度化の3点を掲げている。同社 ビジネスデザイン部 MS1 Brain チーム長の飯間昭夫氏(写真1)は、MS1 Brainを「CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を織り交ぜたようなシステム」と形容する。

写真1:三井住友海上火災保険 ビジネスデザイン部 MS1 Brain チーム長の飯間昭夫氏

 MS1 Brainの中心機能は、AIを活用したニーズ予測分析だ。代理店が保有する顧客データと、同社が持つ契約・事故情報などのデータ、そして外部から取得する企業情報などのデータからなる大量のデータを分析し、顧客のニーズに合った保険商品やサービスを提案する。データを基にニーズ予測を行う予測モデルの生成には、dotData JapanのAIモデル開発プラットフォーム「dotData」を利用している(図1)。

図1:MS1 Brainのニーズ予測分析機能(出典:三井住友海上火災保険)
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 それ以外にも、MS1 BrainはWebで面談や契約手続きを行う機能や、ニーズ予測分析に基づき、顧客ごとに適した補償や特約を説明する動画を自動作成する「Brain Video」、経験豊富な募集人の商談や提案のノウハウ集である「NBA(ネクストベストアクション)」、営業成績や経営分析をグラフで見られる機能などを実装している(図2)。

 「MS1 Brainによって、代理店が持つ保険商品の経験・ノウハウと、AIが分析するニーズ予測やシステムからの情報提供を組み合わせることで、提案活動をより高度化することができる」(飯間氏)

図2:MS1 Brainのさまざまな機能(出典:三井住友海上火災保険)
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 飯間氏が率いるチームは、主にMS1 Brainの運用や機能改善を担っている。MS1 Brainのユーザーである代理店のニーズを汲み取りながら利便性を高めていく中で、いくつかの課題に直面していた。

 その1つが、即時性のある利用実態の把握が難しいこと。利用ログは取得していたが、データ量が膨大であるために負荷が大きく、データ分析は年に2回が限界になっていたという。

 また、代理店の状況理解に努め、ニーズを探索するために、各代理店にインタビューを続けていたが、そこで得られる各社の認識や、感覚に基づいた主観的な情報を、システムの改善にどのように生かしていくかという点でも悩みを抱えていたという。

データドリブンなシステム改善に向けデジタルアダプションツールを採用

 上記の課題を解消すべく、三井住友海上は、システムの利用データをリアルタイムに収集・分析し、システムの改善につなげられる仕組みとして、デジタルアダプションのアプローチを検討することになった。その背景には、飯間氏が2021年~2023年に出向していた、同社の出資先である米Hippoでの経験があったという。

 Hippoは住宅所有者向けに、スマートフォンアプリを通じて保険商品などのサービスを提供するInsurTech(インシュアテック、注1)企業である。同社では複数のSaaSを組み合わせ、成約に至るまでの顧客の行動をデータで可視化し、UI/UXや機能の改善を図る取り組みを「当たり前のように実施していた」(飯間氏)という。

注1:InsurTech(インシュアテック)は、保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた言葉で、保険業界における業務やサービスのデジタル化の取り組みを指す。

 複数のツールの技術検証やユースケース検証を経て、三井住友海上は、Pendo.io Japanのデジタルアダプションツール「Pendo」の採用を決定した。ツールの選定にあたっては、システム開発を担うMS&ADシステムズと、飯間氏を含むビジネスサイドが連携。コストや機能面でPendoが総合的に評価が高かったという。

 Pendoは、アプリケーションの画面にガイダンスやメッセージをオーバーレイで表示して、エンドユーザーの操作を支援する。加えて、アプリケーションの利用データを自動収集し、利用実態を分析する機能を備えている(関連記事「デジタルアダプションがアプリケーションのアジャイルな改善を支援する」─Pendo)。

デジタルアダプション導入の狙いと効果

 デジタルアダプションツールの活用に動き、Pendoを導入した狙いとして、飯間氏は、MS1 Brainの利用実態の精緻かつタイムリーな可視化・分析を挙げた。上述のように利用ログの分析は年2回程度にとどまっていたが、Pendoの導入により、閲覧回数や滞在時間といったより細かいデータを常時取得し、自動分析が可能になった。これにより、分析結果からユーザーのニーズや課題のより深い理解が得られるようになったという(図3)。

 「階層やチャネルといった細かい粒度での絞り込みもできる。こうして代理店における利用実態を具体的に理解し、そのうえで、機能追加や既存機能の要否を検討・判断するデータドリブンな意思決定が可能になったことは大きい」(飯間氏)

図3:利用実態の精緻かつ即時的な分析(出典:三井住友海上火災保険)
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●Next:デジタルアダプションを用いた機能改善の事例と課題

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