[木内里美の是正勧告]

DXを推進するなら「情報システム部門」を根底から見直せ!

2024年10月30日(水)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるようになって以降、情報システム部門の変革に取り組んだ企業は少なくないはずだ。ミッションが明らかに大きく変わったので、旧態依然の情報システム部門ではDXを推進できないどころか、存在価値が問われるからである。だが変革が中途半端でうまくいっていないケースが散見される。

デジタル視点だけではDXは進まない

 2018年9月の経済産業省DXレポート初版では、“2025年の崖”と称してレガシーシステムの刷新が強調された。2年後のDXレポート2で補足修正されるまで、DXの本質が浸透しない副作用が生じたが、レガシーシステムの刷新は情報システム部門が本来、担う必要のある仕事である。経営トップの投資理解が得られるなら、否応なしにやるしかない(関連記事デジタル産業への具体的道筋は?「DXレポート2.1」の真意を読み解く)。

 とはいうものの、ERPのサポート切れに伴う新バージョンへの移行となると、社内には経験者がいないので外部の技術者やコンサルタントに頼ることが多い。しかし外部の技術者などはERPの知識はあっても、肝心の業務知識やノウハウを備えていないのでプロジェクトが難航する事例が後を絶たない。

 難航しても移行を完了できればまだいい。重大なトラブルで業務が混乱し、事業にも影響を及ぼしている会社がいくつもある。外部の技術者にも手が余るようで、構築費は積み重なるばかりだ。基幹系システムなら、正常稼働を確認できるまで新旧システムを並行運用して業務への影響を回避するのが筋のはずだが、そんな話も聞こえてこない。ERPベンダーのダブルライセンスのような縛りがあるようで、術中に嵌っているのではないだろうか

 情報システム部門によるDXの推進に話を戻すと、情シスとは別に「デジタル部門」を置く会社も多い。そしてCIOがいるのに、新たにCDO(Chief Digital Officer)が任命される。「情シスはデジタルを担えないから、対応できる組織を新たに創る」と言われているに等しいし、デジタル視点だけでDXが進むわけではないのに情シスやCIOは表立って反対しない。

 DXには企業価値向上が求められている。企業価値とは経済的な価値である。財務諸表に目を向けたり、自社のEBITDA(利払前・税引前・償却前利益、注1)やROE(自己資本利益率)がどう変化しているかなどに関心を持たねばならない。それらのデータは情シスにあるのに、「経理や財務の仕事だろう」と関心さえ持たない。そんなありさまでDXをリードできるわけもない。

注1:EBITDA(イービットディーエー)は、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、利払前・税引前・償却前利益のこと。主にM&Aなどでの企業価値評価に用いられる。

蛸壺から出て、積極的に現場のDXに関与せよ

 今なお生産や販売部門の現場にも行かない情報システム部門もある。現場は利益の源泉であり、DXのヒントやネタがたくさんあるはずだ。それを自分たちで調べようとせず、居心地のいい蛸壺(たこつぼ)=コンフォートゾーンにいるだけでは情報システム部門は時代の要請についていけない。現場部門との日々の交流がないとガバナンスも構築できない。要求に基づいて個々のシステムを構築するだけなら、もはや情シスは不要だ。

 そうではなく、企業経営を俯瞰して情報投資のデザインができなければならない。生産プロセスを学んで生産部門とコミュニケーションを取り、現場のDXに関与できるようにならなければならない。それらができないので、経営トップは見兼ねてデジタル部門やCDOを置くことになる。それを屈辱と考えるようでなければ、情シスは蛸壺のままだ。

 基幹系システムを構築し、運用してきた情シスにはさまざまなデータが蓄積されている。加えて、IoTなどの現場データを集積すればDXの基盤になる。そんな有利な立場を理解し、生かさなければならない。企業内のあらゆるデータをマネジメントしてこそ、DXを進めることが可能になる。現場を可視化し、プロセスを変革し、生産性を向上させた先にある、事業や経営の変革を促す価値創造のDXだ。

●Next:システムの開発や運用保守に追われるだけの情シスに未来はない

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