[イベントレポート]
「産業現場に文脈なきAIは無意味だ」─IFSが“世界最高のパートナーたち”と目指す産業用AIの実用化
2025年11月21日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)
スウェーデンの業務アプリケーションベンダー、IFSは2025年11月13日(米国現地時間)、米ニューヨーク市でプライベートイベント「Industrial X Unleashed」を開催した。基調講演に登壇した最高経営責任者(CEO)のマーク・モファット氏は、現場のコンテキストを理解しない汎用AIに対して、実業務に即した産業用AIを推進すると宣言した。「デジタルワーカーやロボティクスの活用によって現場の労働力を10倍にする」として、AnthropicやBoston Dynamics、シーメンスら有力企業との協業、新基盤「IFS Loops」を通じて、各業界の現場に即したAIの提供に全力を挙げる。
汎用のAIでなく「産業用AI」がなぜ必要か
IFSは、1983年にスウェーデンで創業した業務アプリケーションベンダーである。主力製品として、ERP、サービス管理、資産管理などを統合したプラットフォーム「IFS Cloud」を欧州はじめグローバルで提供している。
主な顧客は、製造、航空・宇宙、防衛、通信、建設、エネルギーの6業界に属し、工場や発電所などの設備を有する企業だ。これらの業界では、世代交代による労働力不足や老朽化インフラ、気候変動、業界固有の規制など、さまざまな課題が複雑に絡み合う中で、各社とも今後の事業継続と成長に向けて経営変革に取り組んでいる。
IFSが2025年11月13日に米ニューヨークで開催したプライベートイベント「Industrial X Unleashed」(写真1)。その基調講演の冒頭、最高経営責任者(CEO)のマーク・モファット(Mark Moffat)氏(写真2)は、キーフレーズとして「Industrial AI applied(産業用AIの実用化)」を掲げた。汎用ではない、個々の産業に特化して価値を創出するAIを提供するという宣言だ。
写真1:会場となった「Spring Studios」は、ニューヨーク市ロウアー・マンハッタン地区のトライベッカに位置するイメージとしては、それぞれの産業・業界で、現場のオペレーションの効率化や工場・設備環境のリアルタイムな編成、サプライチェーンの最適化などを担える各産業特化のAIを指している。現場の労働力のパフォーマンスを10倍に高めること、これまでの知見やコンテキストを踏まえながら、新しい知識をもってアクションを起こすことなどを実現していくという構想だ。
写真2:IFS 最高経営責任者(CEO)のマーク・モファット氏そんな産業用AIのビジョンを具現化していくにあたって核になるのが、IFS Cloudに組み込まれた、各産業のためのAI「IFS.ai」だ。予測分析、異常検知などのシナリオ・ユースケースを網羅し、コパイロット/AIアシスタントをインタフェースにして機能を提供する。
モファット氏は、汎用的なAIを指して、「今日、コンテキストを無視して動作する技術が非常に多いが、実用的な日々の業務やビジネスに実用できなければ何の意味もない」と指摘。そのうえで、IFSは6つのコア産業に焦点を当てて、何十年にもわたって蓄積したオペレーショナルデータを基に、各産業の課題や要求を深く理解していると強みを強調。業界ごとのニーズに応える産業用AIの実装を加速していく考えを示した。
AIの能力を現場の最前線に立つ人々に直接届ける
「例えば、技術者は、極寒の季節、高さ200フィートの通信圏外のタワーで初めて見る機器にどう対応したらいいのだろう? 停電で何百万人もの人々が命の危険にさらされている瞬間に、だ。ChatGPT、Grok、Geminiなどの汎用AIは驚異的な性能を誇るが、こうした局面ではほとんど役に立たない」とモファット氏。
一方で、IFSが目指すすべての産業用AIは、現実の仕事や実行されるべき作業のために構築された、現実のプロセスに組み込まれていなければならないという。「AIの能力を現場の労働力、最前線に立つ人々の手に直接届けること。それがAIを産業に適用する際の一原則だ」と語気を強めて語った。
その機会を顧客にもたらすために何が必要か。IFSは、最先端のAIモデル活用、パートナーとの協業、顧客のデータ活用、応用AIとロボティクスの連携を「進歩の4つのエンジン」と位置づけている。これらによって、潜在的な能力を実際のパフォーマンスに変えて、単一組織では達成できない成果の創出に注力するとした(図1)。
さらに重要なのは、どの産業においても今や困難を極める「ビジネスの再発明」だという。「オペレーティングモデル、組織、人々の心構え新しい世界に適応させるのは困難だ。それでも我々はテクノロジーのスピードで動いている地球上で最高のパートナーたちと協力し、それを顧客が実現できるように支援していく」(モファット氏)。
図1:実用的な産業用AIを実現するためのパートナー拡大画像表示
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