利用者が急増するTwitter。その自然体での情報発信&共有の姿に倣い、企業の情報共有基盤として使う「社内マイクロブログ」が登場し始めた。シンプルな使い勝手を追求する一方、業務システムやインターネット上の情報も集約するなど、各種の工夫が見られる。
Twitterで日々「つぶやき」を発信している読者も少なくないのではないだろうか。最長でも140文字という、ごく短いメッセージを投稿。その人に関心を示す人(フォロワー)が内容を読んで近況を知り、時にはそれにコメントを返す…。緩やかで気構えないスタイルが、とりあえず何か書こうとする「意欲」や知人の言動を気にかける「興味」につながって、場が活性化すると共に人と人とのつながりが親密なものになっていく。
大規模導入事例も登場
社内活性化の手段として重視
Twitterに代表されるマイクロブログのこうした特性に注目し、企業内のコミュニケーションツールとして提供しようという動きが出てきた。メールや電子掲示板に伴いがちな“堅苦しさ”を取り払い、社員の結束力を高める上で欠かせない「自然体での情報共有」を促すことが狙いだ。
ただし企業が業務の一環で利用するとなれば、コンシューマ向けのパブリックなWebサービスをそのまま使うわけにはいかない。セキュリティやユーザー管理などの面で「関係者限定」で運用することが条件となる。そうした機能を備えるのが「企業向けマイクロブログ」製品である。
導入事例もある。デルは全世界の従業員10万人に対してセールルフォース・ドットコムの「Salesforce Chatter」を採用し、社内の情報共有体制を強化している真っ只中だ。
外資のグローバル企業に限らない。ITホールディングスグループのネクスウェイは営業部門を中心にChatterを活用。「商談の動きを的確に把握する体制が整ってきた」(マーケティングソリューション推進部の上田代里子氏)。TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブはコミュニケーション促進を目的に、従業員2000人にデジタルガレージの「BirdFish」を導入。ほかにも2010年あたりから事例が増え始めている。
企業向けマイクロブログをうたうサービス/製品には、どのような種類があるのか。国内に問い合わせ先のない海外のものや、機能を削り込みサポートも省いた無料版のもの、統合型グループウェアの1モジュールとして提供されるものを省くと、主要なラインナップは5つとなる(50ページの表)。
いずれもマイクロブログとしての基本的な機能を実装しつつ、社内利用を想定した工夫を盛り込んで独自性を打ち出している。以下では、主だった5つのサービス/製品について、機能の詳細を見ていこう。
[セールスフォース・ドットコム] Salesforce Chatter
業務システムの情報も集約
CRM(顧客関係管理)を対象としたSaaS提供を皮切りにPaaSにも事業を広げ、クラウドプレーヤーの地歩を築いたセールスフォース・ドットコム。同社が次なる事業の柱として注力しているのが社内マイクロブログの「Salesforce Chatter」だ。
最大の特徴は、“つぶやき(情報)”を発信するのは「人」と限定せず、業務システムからの情報も同じ場に取り込もうというコンセプトを持つことだ。「ビジネス上で発生するデータやイベントを管理する業務システムは貴重な情報源。刻々と変化する現況を自動的につぶやいてくれるとしたら、社員同士のコミュニケーションやナレッジ共有に勝るとも劣らない付加価値となる」(執行役員 プロダクトマーケティングの榎隆司氏)。
Salesforce CRMとの連携を例にとろう。気になる案件や顧客を“フォロー”しておくと、CRM上で管理する「社員が起こしたアクション」や「顧客からの問い合わせ」といった商談の進捗にかかわる情報がChatterの画面に発言として表示される。利用者は現場で何が起きているかを把握できるのはもちろんのこと、もし自分の経験からアドバイスすることがあればChatterで知らせてあげるといったことができる。
同社のPaaS「Force.com」上で開発したアプリケーションとも連携可能。Webサイトから問い合わせしてきた顧客に対し、社内の適切な担当者に回答するようChatter経由で連絡したり、採用の申し込みがあれば人事担当者に連絡したりといった使い方ができる。
さらにForce.com上でアダプタを開発すれば、既存システムとの連携も可能だ。「ERPの更新情報を取得して商品の在庫数を表示させるなど、Chatterを企業システムのポータルとして使えるようになる」(榎氏)。
[モディファイ] SMART for Business
Webサイト上の情報収集に活用
社内マイクロブログに集約すべき情報として、競合他社などがWebサイトやブログ、Twitterを通じて日々発信しているニュースに目を向けたのがモディファイの「SMART for Business」。社員のつぶやきだけでなく、ネット上に一般に流れるコンテンツも積極的に共有しようという発想だ。
技術的には、各サイトの更新情報を効率的に集約する仕組み「RSS」を使っている。「当社はRSSなどを活かしたWebアプリケーション開発を手がけてきており、これまでのノウハウを存分に注ぎ込んだ」(モディファイ 代表取締役社長 兼 CEO 小川浩氏)。著名なニュースサイトについては標準で登録できるほか、個別ニーズに応じて任意のサイトを追加できる。
同社の「SM3」と呼ぶ技術基盤を使うことで、複数のソーシャルメディア上の発言から特定キーワードを含むものを集約して表示することもできる。自社のブランドや商品などがソーシャルメディア上でどう評価されているのかを把握するといった用途に使える。
[ソニックガーデン] youRoom
グループ別に発言を管理
マイクロブログを全社的に導入するとなると、そのカジュアルな使い勝手から、ともすると雑多で膨大な発言の中に貴重な情報が埋もれてしまう可能性もある。こうした懸念を払拭しようというアプローチを採るのがソニックガーデンの「youRoom」。営業部や広報部といったグループ単位での利用を想定したサービスだ。その名の通り、“大部屋”での情報交換ではなく、グループ向けの“個室”を提供しようという発想に基づいている。
「自分の発言をフォローするのは一緒に仕事をしているグループのメンバーだけという心理上の安心感が情報発信を促す。一方では、情報が過度に増えないのでユーザーの目が隅々まで行き渡りやすい」(ソニックガーデン 代表 倉貫義人氏)。
気に留めておきたい情報を後から簡単に参照するための工夫も盛り込んだ。「マイクロブログの多くはタイムライン(時系列)に沿って発言を表示するだけが、youRoomはメールのように個人が設定したルールに基づいて指定フォルダに振り分けられる」(倉貫氏)。そのほかタグ付けによって、特定の発言だけを絞り込んで閲覧するといった使い方も可能だ。
youRoomは管理者による招待メールでメンバーを設定。1人が複数のグループに属することもできる。また、従業員以外の社外の協力者を加えることも可能。SSLによる暗号化通信など、企業利用を視野に入れたセキュリティ対策を施している。
[デジタルガレージ] BirdFish
重要情報に自然に目が向く配慮
「全員参加」による自然体での情報共有が社内マイクロブログの1つ理想像だ。Twitterなどに慣れ親しんだ若手社員はすぐに馴染むが、管理職の利用が今ひとつ進まない、ということは避けたい。
デジタルガレージの「BirdFish」は、操作体系の分かりやすさを訴求点に挙げる。「タブやメニューを必要最小限に絞り込んだほか、返信やファイル添付も明示的なアイコンをクリックするだけ。パソコンはどうも…という人でも使いこなせるインタフェースにこだわった」(執行役員 技術本部 Product UX DG&Ibexカンパニー 新規事業開発室 副室長 湯川浩氏)。
見ておくべき情報に自然に目が向くよう工夫を凝らしている。例えば、「これは重要」と思った発言を利用者が「お気に入り」として登録する機能がある。トップ画面の右側には「みんなのお気に入り」というコーナーがあり、ここには、より多くの人に登録された発言が上位から順番に表示される。いつも注目すべき発言をしているユーザーを「おすすめ」として登録しておき、その人の発言を全員に紹介する機能も重要情報の周知徹底に役立つ。
[ライトスピード] Crowdroid for Business
自動翻訳で多国間での利用も
グローバルでの利用を想定し、発言の自動翻訳機能で特徴を打ち出そうとしているのがライトスピードの「Crowdroid for Business」だ。
海外拠点の現地スタッフとの間で、ちょっとした相談や報告をマイクロブログを通じてしたいと思っても、そこには「言葉の壁」がある。これを取り払うための工夫として自動翻訳に着目した。ただし現状では、Android専用クライアント「Crowdroid」を使ったモバイルでの利用が前提となる。
具体的には、GoogleやBingの翻訳エンジンを活用。数十種類の言語の中から任意のものに変換できる。利用者はCrowdroid for Business上で特定の発言を選択し、翻訳すべき言語を指定するだけでよい。あるユーザーの発言をすべて指定言語に置き換えるように設定しておくことも可能だ。
「必ずしも精度の高い翻訳結果を示せるわけではないが、マイクロブログは発言の1つひとつがシンプルで短いため自動翻訳に向く。相手を配慮して分かりやすく発言すれば、十分に意思疎通を図れる」(開発元のアンフイオープンソースソフトウェアインク 代表取締役社長 中尾貴光氏)という。 (折川 忠弘)
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