2010年にあった明るい話の一つが、南米チリの北部にあるサンホセ鉱山で8月5日に起きた落盤事故だろう。当初、33人の鉱山労働者の生存は絶望視されたが、事故から18日目にドリル調査によって全員の生存が確認された。その後、10月13日の全員救出に至る、まるで映画を観るような作戦は、世界中に大きな感動を与えた。しかも初期の見込み工程を大幅に短縮して見事な成果をあげたのである。
翻って、システム開発プロジェクトを考えると、失敗例が驚くほど多い。工程の遅れや予算オーバーは常態化しているし、成果品の満足度は高くない。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によると、500人月以上の大規模プロジェクトでは4割以上で工期が遅れ、あるいは4割以上で予算超過が起きている。予定以上に工期と費用を掛けながら、品質の満足度には3割が不満と答えている。チリの救出劇とは内容もシチュエーションも異なるが、同じプロジェクトでありながら、どうしてこんなに成果が違うのかを考えてみたい。
救出劇をシステム開発に擬える
チリの救出プロジェクトとシステム開発プロジェクトを重ねると、足りないものが見えてくる。地下に閉じ込められた鉱山労働者は発注者に当たる。「救出」というリクエストをメモに託したところからプロジェクトが始まった。要求は全員を無事救出することである。レスキュー隊を含む地上のチームはベンダーに当たる。目的を達成するためのプランニングが始まる。
地上チームは閉じ込められた33人が全員生存していることを確認すると、すぐにNASA(米航空宇宙局)に協力要請を出した。狭い閉鎖空間での心身ケアのアドバイスを受けるためだ。適切なタイミングで専門家を活用するのはプロジェクト成功の基本でもある。システム開発プロジェクトでもベンダーは自己完結に頼らず、同じようなことをしているだろうか?
それから地下634mの坑道へ向けた救出トンネル3ルートが計画され、3ルートとも掘削が進められた。システム開発では同時複数のアプローチはないだろうが、ウォータフォール一辺倒でなく、手法のバリエーションが必要だ。掘削の傍らで救出ケージの設計や製作、救出後のケアの準備、家族のための施設などが用意された。これはシステム開発のための機械やインフラや人材を引当て、テスト環境や本稼働への備えをするのと同じことだ。
地下ではリーダーのもとに統率のとれた行動をとり、救出を待つ。食料の分配、役割分担、救出に役立つ地図作りなどである。医師役もいたし、地上との連絡役もいた。地下も強固なチームが出来ていた。システム開発の発注側が受注者に丸投げすることなく、密な連絡を取りながら自分たちの役割を分担して進めるのと同じだ。
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