[ザ・プロジェクト]

グループ2万人が利用するシステムを仮想化、84台の物理サーバーをブレード8基に統合─キヤノンマーケティングジャパン

2011年7月27日(水)川上 潤司(IT Leaders編集部)

サーバーの増加に伴って増え続けるプロセサやメモリー、そしてディスクの“無駄”と、膨れ上がる運用コスト。サーバー統合は数年前から進みつつあるようにみえるが、この種のインフラの問題に頭を悩ませているIT部門は、今もまだ少なくない。グループ2万人が利用する情報系システムのサーバー84台を10分の1以下に減らし、15%のコスト削減を目指すキヤノンマーケティングジャパンの仮想化プロジェクトの全容を聞いた。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

NICの仮想化機能に不具合
ファームの更新で解消

2011年1月に発表したカラーレーザー複合機「Satera MF9220Cdn」(上)と、2011年2月発表のデジタル一眼レフカメラの最新機種「EOS Kiss X5」(下) 2011年1月に発表したカラーレーザー複合機「Satera MF9220Cdn」(上)と、2011年2月発表のデジタル一眼レフカメラの最新機種「EOS Kiss X5」(下)

─ 少し話を進めます。実際に移行作業がスタートしたのは?

平野: 要件定義や設計を終えてキヤノンITSから構成済みのハードウェアが届いたのが2010年9月末頃。その後、動作確認をして、10月末に物理環境から仮想環境への移行に着手しました。

深澤: 最初に移行したのは全社ポータルのLinuxサーバー16台と、Active DirectoryのWindowsサーバー21台です。いずれも物理環境と仮想環境の並行運用を経て、全社ポータルは2011年4月に完全に移行を終えました。

平野: Active Directoryのサーバーは5月中旬に仮想環境上への移行を完了しています。

─ 移行作業そのものは順調に進んだのですか。

深澤: うれしい誤算というと変ですが、これまでのところ無事故で切り替えることができています。仮想化技術がどこまで成熟しているのか把握しきれていなかったこともあり、少なからず問題は出るだろうと心の準備はしていたのですけど。

─ そう言いつつ、本当は何かあったのではないですか(笑)。

平野: それが移行作業はまったくといって良いほど問題が出ていないんです(笑)。強いて挙げるなら、移行作業に入る前に1つ問題に直面しました。

─ どんな問題ですか。

平野: サーバーの起動時に物理NIC(ネットワークインタフェースカード)を論理的に分割する機能が正常に動かないという不具合です。

─ サーバーの仮想化において、それは小さな不具合ではないでしょう。

平野: ただ、サーバーを起動するたびに発生するのではなく、20回に1回ほどの割合で発生する希な症状です。サーバーを起動するのは年間1、2回なので、そのときに仮想NICの状態を確認し、必要に応じて再起動すれば解消できるレベルの問題です。もっとも、PCサーバーの仮想化は今回が初めてだったので神経質になってキヤノンITSに対応を依頼しましたが。

─ 原因はすぐに分かったのですか、星合さん。

星合:  日本では原因を正確に把握できなかったので、結局、日本HPから米HPに症状を伝えてファームウェアを更新してもらいました。

サーバー台数を10分の1に消費電力量を70%削減

─ 逆に、今回のプロジェクトを通して新たな発見はありましたか?

深澤: たくさんあります。とにかく良い意味での驚きが多かったです。例えば、稼働前は仮想化時に生じる(I/Oデバイス処理やメモリーアクセスの)オーバーヘッドが気になっていましたが、現時点で期待以上の性能が出ています。iSCSI対応ストレージも特段のチューニングをしていませんが、十分な性能を確保できています。

平野: 物理サーバー間で仮想マシンを移動させるヴイエムウェアの「VMware vMotion」も、きちんと機能するのか懐疑的でしたが、スムーズに動作する。

深澤: vMotionを活用できるようになったので、次回のサーバー更新はきっと楽ですよね。

平野: インフラの変更によって運用の仕組みがガラリと変わることに対する心配も杞憂でした。ハードウェアの稼働監視や仮想環境の運用管理をするのに、HP製の付属ツールやヴイエムウェアの「VMware vCenter Server」など新たなツールの使い方を覚える必要はありましたが、運用担当者はサーバーの新規セットアップやメンテナンスが格段に楽になったと口々に言っています。

─ 当然、サーバールームのスペース効率も高まっている。

星合:  従来7台あったラックが2台になったことで、設置スペースは80%以上削減できました。また、84台のサーバーを8基のブレードに集約しますから、物理サーバーの数でみると約10分の1以下になります。これにより消費電力量を70%以上減らせる見込みです。

リソースの最適化を図り集約率のさらなる向上へ

─ 最後に、今後の計画を教えてください。

平野: Active Directoryや全社ポータルのサーバーの仮想化は終えましたが、簡易データベース用のサーバーやセキュリティサーバーなど数十台がまだ物理サーバーのまま残っています。まずはそれらの仮想化を進め、8月までに84台すべてを移行する予定です。

星合:  現状は従来のシステムを単純に仮想化して新しい物理サーバーに載せ替えただけなので、リソースの割り当て方法などを仮想マシンごとに最適化して集約率を一層高めていく必要もあります。

古川: それらと並行して、ディザスタリカバリ・サイトも用意します。具体的には、東京都西東京市に新設予定のビルに本番系の半分の規模のサーバーを設置し、本番系が使えなくなった際にすぐに切り替えられる仕組みを整える計画です。

─ 東日本大震災の経験から、異常時でも利用可能なコミュニケーションインフラを確保することの重要性が高まっていますからね。

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