企業ITに携わるプロフェッショナル達に、自分の書棚から特に印象に残っている3冊を選んでもらう「私の本棚」。今回は、ツムラ 情報技術部 部長の佐藤秀男氏に聞いた。
今はそうでもないけど、昔は月に20冊とか、むさぼるように本を読んでいた時期があります。だから自宅には、膨大な蔵書が「あった」。あえて過去形にしたのには理由があって、実は先日、自宅の改築を機に、家財を思い切って“断捨離”したんです。本も例外じゃなく、一気に処分しました。
というわけで、「私の本棚」は今、“空っぽ”。ここまでスッキリすると、逆に自分に影響を与えた本が何だったかを振り返りやすい気がします。
強く心に残る本を挙げるなら、その筆頭は「Computer in Business」という洋書です。読んだのは大学2年生の時かな。もう35年ほども前の話です。あ、取材を受けるからといって気取ったわけじゃありませんよ(笑)。
恥ずかしい話、その頃の私は特段の目的意識もないまま学生をやってました。モラトリアムってやつです。そんな折、新設されたばかりのゼミで情報管理論を学ぶことになりました。そこで最初の教材に指定されたのがこの本。まずはエッセンスを翻訳して提出しろ、という課題が与えられたんです。
高いなぁと思いながらも東京八重洲の丸善で手に入れ、辞書を片手に読み始めました。でもね、コンピュータの「コ」の字も知らない人にはチンプンカンプン。inputやoutputぐらいならまだしも、transactionなんて単語が出てくると何じゃそりゃって感じで、先に進めない(笑)。
悔しいから教授に食い下がると、根気よく教えてくれるんです。その先生は大手コンピュータメーカーに勤めた経験もあり、単なる理論だけじゃなく、実世界での例を挙げながら腑に落ちるまで説明してくれる。まだコンピュータの黎明期だったわけだけど、私自身は「これからの企業や社会のあり方が大きく変わるぞ!」って思いを強くしました。結果としては、この本や先生との出会いが、今日までITの世界にドップリ浸かる契機になったわけです。
この間、オープンシステムやインターネットの台頭などで、企業システムが大きく変貌したのは周知の通りです。新しいコンセプトや技術論が次々と打ち出され、ITの本質から外れるような喧伝文句も目立ってきました。惑わされないためには、常に自分の“立ち位置”を確認することが必要でした。
そんな時に参考になったのが、「ザ・ゴール」から始まるエリヤフ・ゴールドラット氏の著作シリーズ。10年ほど前にベストセラーになったので、読まれた方も多いことでしょう。
第1作は、機械メーカーに勤める主人公や部下たちが、「本当の目的は何か」を考えながら工場の改革に挑みます。自分が生産管理の業務に携わっていたことも、のめり込んだ一因でしょう。常に原点に立ち返って真のゴールを目指す姿には共感を覚えました。ほかには第3作の「チェンジ・ザ・ルール!」が面白かったかな。IT投資と収益の関係を考え直すよいきっかけになった記憶があります。いずれの作も、プロジェクトで壁に当たる度に何度も読み返して自問自答したもんです。
振り返って見ると、ちょっとお堅いビジネス書を読むことが多かったので、これからは歴史書なんかにも手を伸ばすつもり。ダイエットで体を絞っているんで、代わりに未開拓の領域の本で人間の“幅”を広げようと思います。
ザ・ゴール ─企業の究極の目的とは何か
エリヤフ・ゴールドラット著、 三本木 亮訳
ISBN: 978-4478420409
ダイヤモンド社
1680円
チェンジ・ザ・ルール!
エリヤフ・ゴールドラット著、 三本木 亮訳
ISBN: 978-4478420447
ダイヤモンド社
1680円
- 佐藤秀男 氏
- ツムラ 情報技術部 部長
- 1982年、ツムラに転職して茨城工場の建設プロジェクトに参加。以後、13年間にわたって生産部門のシステムを担当。その後、アウトソーシング体制の整備や海外子会社システムの構築などに関わりながら工程管理や品質管理を抜本的に改革。近年はサーバー仮想化などの陣頭指揮を執った。
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