グーグルがオリジナルブランドの製品開発に注力し始めた。6月27日から29日の3日間、米サンフランシスコで開催された年次開発者会議「Google I/O 2012」の中で、同社は複数の特徴あるハードウエア製品を発表した。
まずはグーグルとしては初めてとなる自社ブランドのタブレット「Nexus 7」だ。生産は台湾メーカーAsusが担うが、商品ブランドはあくまで自社冠の商品となる。米国など4カ国で7月中旬から199ドル(約1万6000円)で販売開始される。
同社はこれまで、OS「Android」を他社に提供する形で、スマートフォン市場でのシェアを高めてきた。最終製品はメーカーが開発・販売する一方で、グーグルはあくまでOSの開発・提供に徹してきた。しかしここにきて、加熱するタブレット市場を目前に、初めて自社ブランドでの市場参入に舵を切った形だ。
米アップルが統合型ビジネスモデルで成功を極め、コンシューマーエレクトロニクス分野でマーケットリーダーにまでのし上がった今、グーグルも独自ブランドの端末開発に取り組まざるをえないという様相だ。マイクロソフトもタブレット市場に参入表明しており、競争が激化する中、ハード、ソフト、コンテンツを合わせた3分野で相乗効果を追求する戦略が重要になってきていることが背景にある。
しかし、家電メーカーにとっては、メーカー的な色彩を帯びつつあるネット企業は、強力な競争相手にもなる。これまでAndroidを自社製品のOSに採用することで、Androidの普及に一躍担ってきた協力メーカーと競合する関係にもなりかねない。グーグルにとっては微妙な舵取りが強いられる局面といえる。
クラウド型ホームエンタテイメントプレイヤー「ネクサスQ」も発表
加えて発表したのは、家庭のリビングルームで使われることを想定しデザイン設計された、クラウド型メディアプレイヤー「ネクサスQ」だ。一見、小さなボーリングのボールのような黒い球体が特徴のこのデバイス。テレビやスピーカーに接続し、Android搭載のスマートフォンやタブレットに「ネクサスQ」アプリをインストールして、無線で操作する。
これを使って、グーグルのコンテンツ配信サービス「Google Play」で購入しクラウドに保存した映画や音楽、画像などのコンテンツを、自宅のテレビ画面上にストリーミング再生したりできる。このデバイスは、ソーシャル・ストリーミング機能もついており、家に遊びに来た友人が各自持ち寄った画像や音楽をプレイリストに交互に加えたりすることができる。クラウド上でジュークボックスのような役割を果たすソーシャルストリーミング端末だ。価格は299ドル(約2万4000円)で、7月中旬から米国で出荷開始される。
グーグルが見る未来のコンピューティングの姿を垣間見るグーグルメガネ
そして、未来型コンピューティングの世界を垣間見る製品として紹介されたのは、超小型のカメラやディスプレイ、無線装置等を内蔵した超軽量メガネ型コンピュータだ。イベント会場では、会場上空の飛行船から、この電能メガネを装着した空中ダイバーがスカイダイビングし、イベント会場のビル屋上にパラシュートでランディング。内蔵カメラで撮影した映像を数千人が集まる会場に直接持ち込む劇的な演出を行った。
本製品のコンピューティング機能はメガネの片側に全て集約されている。現状では、一見まだ違和感があるが、スカイダイバーが空中ダイビングし、ビルを壁づたいに降下できるくらい軽量で、カメラや携帯端末をいちいち取り出さずとも移動中の画像を自由に撮影することができる。将来的にはより小さく目立たなくなり、普通の眼鏡により自然な形で組み込まれる形になるだろう。こうしたデバイスを使い、人とテクノロジーの関わりがよりシームレスになることで、テクノロジーは人々の生活のよりあらゆる場面で活躍の場を広げていくのだろう。
これまでグーグルの年次会議でも、スピーカーとして姿を現すことは稀だった共同創業者セルゲイ・ブリン氏本人が、本品に関しては直接舞台に登壇し、開発中のプロトタイプをお披露目する力の入れようだ。試作機は、1500ドル(約12万円)で開発者向けに受注開始された。
これら新型製品に見られるように、グーグルはネット上のみならず、形ある製品の開発にも自社の経営リソースを注ぎ込み始めた。多機能携帯端末は、市場が活性化するとともにIT業界の業界構造をも大きく変化させつつある。アップルと対抗するネットの巨人が垂直統合型ビジネスモデルを取り込み始めたことで、今後さらなる業界構造変化の行方が注目される。
(ITジャーナリスト 堀田有利江)