[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.4「エクスペクテーションコントロール」

2013年1月16日(水)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

プロジェクトの提案段階やキックオフの段階では、しばしば「エクスペクテーションコントロール(Expectation Control)」と呼ばれる手法が用いられる。成功率を高め、顧客満足を得るために、知っておきたいテクニックの1つだ。

 エクスペクテーションコントロール(Expectation Control)とは、成果や効果についての顧客側の期待値を、事前に適正化しておくことだ。つまり、「こんなこともあんなこともしてくれるのではないか」といった過剰な期待がある場合はそれを抑制し、逆に「大したことはできないだろう」と淡い期待の場合は価値が十分に伝わるように取り組む。

 よく似た概念を、『勝負は、お客様が買う前に決める!』の著者である柴崎辰彦氏は「事前期待のマネジメント」と表現する。ポイントは「事前に=あらかじめ」行っておく点にある。ひとたび買う買わないの意思決定をした後に、顧客の意識を変えるのは難儀だからである。

 なぜエクスペクテーションコントロールをするかといえば、往々にしてクライアントは「コンサルティングを受ければ万全だ」、「著名なアナリストは全て問題を解決してくれる」といった幻想を抱きがちであり、行き過ぎた期待をかける傾向が強いからだ。もちろんのこと、いざ支援を開始するとアナリストは顧客に満足してもらえるよう、知識、経験、感性、人的ネットワークを駆使して誠意をもって課題解決にあたることとなる。

 ただし、その成果は常に顧客側の期待を十分に満たすものになるとは限らない。例えば、コンサルティングフィーが限られており、クライアントへ有益な情報を提供したくても契約上できない場合がある。また、顧客が思い描くアナリスト/コンサルタントの能力が実態とかけ離れており、有意義な助言や示唆を得られないこともあり得る。

 とりわけ多く見られるのは、契約範囲や成果物に対する相互認識のズレ、いわゆる「ボタンの掛け違え」である。期待外れとなるリスクを避ける(=エクスペクテーションコントロール)ために、事前に入念に認識合わせを行っておくことは重要である。

満足は相対評価から導かれる

 コンサルティングにおける顧客満足とは、期末テストで及第点をとるといった「絶対評価」から導かれるものではない。むしろ「相対評価」、つまり期待や投じたコストのわりに満足いく結果であったか否かで得られる。

 だとすれば、顧客満足を得るアプローチは3つ考えられる。①期待値を下げる、②コストを下げる、③常に最上の成果を出す、である。「②コストを下げる」ことは、上述したように質の低下を招くため、あまり好ましくない。

 また、プロジェクトに想定外はつきものであり、「③常に最上級の成果を出す」ことができるかどうかも疑わしい。一方、「①期待値を下げる」は、適切に実施できれば、これは満足度を高めることに貢献する。

 例えば、顧客企業にITコスト削減プロジェクトの一環として、他社のコストデータの収集を依頼されたとしよう。一定数のデータ提供の協力先が見込まれるものの、繁忙期であり十分なサンプルが集まらない可能性もある。そうした場合は、単に「できます」とせずに、「目標社数は集まりそうですが、先方都合ゆえ2〜3社不足する可能性もあります」と言っておく。「その場合は統計データで代替します」などと代替案も付け加えておきたい。

 この時、エクスペクテーションコントロールは、過剰な期待値を適正なレベルに引き下げることを意味する。期待値が低過ぎることが問題になることもあるかも知れないが、そんな時はそもそも外部に支援を依頼していないだろう。可能な限り契約前に期待値を適正化しておけば、期待を裏切らない成果を出す確率が高まる。そのような成果を出し続ければ、アナリストへの社内外の信用が高まり、有益な取引先も増えるだろう。

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