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[IoT時代に向けたデジタルマーケティングのデータ活用法]

デジタルマーケティングを可能にするデータの変遷:第1回

2014年8月6日(水)飯野正紀、生嶋友貴(アイレップ)

社内外で取得し、企業活動に利用可能なデータが急激に増え続けている。しかし、さらなる期待が高まっているマーケティング活用においては、どんなデータを収集し、分析すれば良いのだろうか?こうした疑問に答えるために、本連載では企業が利用できるデータの変遷から、活用事例、さらにこれからのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代に向けたマーケティングとデータについて解説していく。第1回は、この10余年を見たデータの量的および質的な変化とマーケティングへの活用方法をまとめる。

If we had computers that knew everything there was to know about things—using data they gathered without any help from us—we would be able to track and count everything, and greatly reduce waste, loss and cost.
(ヒトの手を借りずに収集したデータを利用して、モノのすべてを知ることができるコンピュータがあれば、あらゆるモノを追跡し、計算することが可能になり、無駄、損失、そしてコストを大幅に減らすことができるだろう)──ケビン・アシュントン

 これは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の源泉であるRFID(Radio Frequency Identifier:ICタグ)の専門家ケビン・アシュントン氏による1999年の発言だ(関連記事)。それが現実になる日が近づいてきている。

 IoT化が進めば、PCやスマートフォン、タブレットといったIT機器だけではなく、自動車や家電など、これまでインターネットに接続されていなかったモノが次々とつながり、新たなデータ活用の時代が始まる。

 例えば米グーグルは2014年5月、自社で設計した自動走行が可能な小型車両「グーグルカー」を披露した。屋根に搭載したセンサーやカメラで周囲の情報を収集し、そのデータをAI(人工知能)機能を備えたコンピュータで情報を分析することで自動運転を可能にする。これが実用化されれば、“運転の無駄”を完全になくせるかもしれない。今からそう遠くない2020年ごろには実用化されるという。

 グーグルカーにみられるように、多種多様なデータが取得できる時代において企業は、エンドユーザーのニーズに、よりタイムリーかつ的確に応えるために、収集したデータをどのようにサービスやマーケティングに活用できるかが、これまでになく問われることになる。

 これからのデータ活用を考える前に、まず手元にあるデータを再確認するためにも、我々を取り巻くデータの変遷を振り返ってみたい。

常時接続環境がコンテンツを拡充しログの価値を高めた

 日本のインターネット利用者と関連ビジネスの大きな転換点になったのが、2000年前後のADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)やCATV(Common Antenna Television:ケーブルTV)、FTTH(Fiver to the Home:家庭向け光ファイバー通信サービス)などのブロードバンド環境の登場である。

 これらブロードバンド通信サービスの多くが、定額制の常時接続環境を提供したことで、利用者は、従来の認証待ちが必要なダイヤルアップ接続と違って、料金や時間を気にせずに利用できる手軽さを手に入れた。結果、インターネットの人口普及率は、2001年末から2002年末にかけて11.5%という大幅な伸長を記録した(図1)。

図1:インターネットの人口普及率の変化図1:インターネットの人口普及率の変化
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 同時に、大容量のコンテンツをダウンロードする待ち時間が大幅に減少した。それにより、Webページの表現が向上し、動画・音楽などのコンテンツの拡充や、ネットショッピングへの利用拡大に大きく寄与した。これに伴い、インターネット広告も堅調な伸びを記録し続けている(図2)。

図2:インターネット広告市場の変化図2:インターネット広告市場の変化
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 インターネット環境が整えば整うほど、Webサイトの訪問者も増えてくる。必然的に、「アクセスログ」や「生ログ」と呼ばれるデータが、インターネット上のマーケティング活動において重要なデータになってくる。

 ユーザーがWebサイトを訪問すると、WebサーバーにアクセスしたIPアドレスや閲覧要求したファイル(htmlページなど)が記録される(図3)。これにより、例えばネットショッピングサイトの運営者であれば、Webサイトの訪問者が「どこから訪れ」「何を閲覧し」「何を購入したか」など、ネットビジネスの効率化に欠かせないデータを得られる。

図3:Webサイトを訪問した際のデータ取得の仕組み図3:Webサイトを訪問した際のデータ取得の仕組み
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 これらのデータに基づき、ユーザーの行動パターンに対する仮説を立て、Webサイトやインターネット広告の改善施策を継続的に実施することが、インターネットマーケティングにおいて重要になっていく。いわゆるアクセス解析の始まりである(図4)。

図4:データが教えてくれるWeb訪問者のプロフィールの例図4:データが教えてくれるWeb訪問者のプロフィールの例
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 アクセス解析は大きく(1)定点観測・分析と(2)ad hoc(アドホック)分析に分かれる。前者は、日・週・月単位で特定の観測項目を観測・分析するもの、後者は目的を限定して都度分析するものだ。

 定点観測・分析では例えば、日単位でWebサイトの来訪者数やページビュー数を観測し、メールマガジンやその他の広告キャンペーンの集客状況を分析することで、それらの配信内容・曜日・時間帯などを見直していく。

 ad hoc分析の例としては、不定期にTV−CMを実施する場合、実施前後で、放映対象地域ごとに、指名ワード(社名や商品名などを含むワード)による検索を伴う来訪者数や成約数を調べ、数値が増減している原因を分析することで、TV−CMの内容や放映する曜日・時間帯、キャンペーンページなどを見直していく。いずれも今日では、きわめて一般的なデータの活用方法になっている。

ブログやSNS上に生まれる“共感”が無視できない時代

 2000年代前半になると、インターネット環境はさらに進展し、様々なネットビジネスが生まれてきた。インターネットマーケティングは、アクセス解析以外の領域へ急速に拡大していく。その1つが、ブログやSNS(Social Networking Service)の領域だ。

 例えば、「アメーバブログ」や「ライブドアブログ」といったブログサービス、GREEやmixiなどのSNSが広く利用されるようになり、生活者が個々人の様々な生活体験や思いを発信しシェアするようになった。

 すると、高い情報拡散・情報共有力を持つブログやSNSといったネットワーク内で生まれる“共感”が、生活者の意思決定に大きな影響を及ぼすようになる。それまで企業から生活者への一方通行だったマーケティングコミュニケーションが、ブログやSNSを介した利用者と企業の双方向コミュニケーションへと姿をかえ始める。

 具体的には、Webクローリングと呼ぶエージェント技術を利用して、ブログやSNS上の生活者の声を収集・分析することで、業界動向を把握・予測したり、自社ブランド/製品/サービスの評判を把握・改善したりができるようになってきた。これが「ソーシャルリスニング」と呼ばれる活動だ。

 ソーシャルリスニングの活用例の1つに、検索連動型広告に追加するキーワードの選定がある。検索連動型広告とは、インターネット広告の一種で、検索エンジンで利用者が検索したキーワードに関連した広告を、検索結果ページに表示する有料の広告手法である。広告が配信される場所は検索結果欄に限定されるものの、「購入したキーワード」に連動して広告が配信されるため、広告効果が比較的高い。

 この検索連動型広告にソーシャルリスニングツールを利用すれば、特定の商品や商品カテゴリーに対するSNS上の生活者の声を収集・分析し、関連キーワードを選定するか否かの判断材料にできる。

 2000年代後半以降も、ブログやSNSは発展が続き、ソーシャルリスニングの重要性が増していく。だが2010年以降からは、もう1つの大きな変化が起こる。スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイスの登場である。

 図5に、PCとモバイルデバイスの世帯普及率を示す。PCのそれは2009年末をピークに下降し続けているのに対し、モバイルデバイスは順調に世帯普及率を伸ばしている。かつて、ブロードバンド環境が整備されることでPCが普及し、様々なインターネットビジネスが生まれた。それが今は、定額常時接続のブロードバンド環境がモバイルデバイスを対象に急速に広がっているわけだ。

図5:PCとバイスデバイスの世帯普及率の変化図5:PCとバイスデバイスの世帯普及率の変化
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 モバイルデバイスは、デスクトップPCと異なり、手軽に身に付けて常に持ち歩ける。生活者の全生活空間で利用できるため、ソーシャルリスニングやリアルタイムマーケティングのさらなる発展につながる可能性が高い。リアルタイムマーケティングとは、その時々で顧客が何を求めているかを把握し最も効果的な情報を送るマーケティング手法である。

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