[CIOのための「IT未来予測」将来を見据え、目前のITを評価せよ]

【第10回】IoTによってビジネスを変える

2014年8月20日(水)大和 敏彦

クラウドや、ネットワーク、ビッグデータの動向を取り上げてきた。最近、急速に注目度が高まっている要素テクノロジーが、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)である。IoTにおいても、他の要素テクノロジー同様に、どう使いこなし、ビジネスにつなげていくかが重要である。IoTを取り巻く最新動向に触れてみたい。

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)のテクノロジーと、そのビジネス応用を考える上で参考になる事例に、蘭フィリップスの「Lighting as a Service(LaaS)」ビジネスがある。米ワシントンDCの交通局が募集した25カ所の駐車場における照明の入れ替え案件に対する提案だ。フィリップスがLED照明と、そのインテリジェントコントロールおよび保守をサービスとして提供する。

 ワシントンDCは、この照明機器を売るのではなく「光をサービスとして提供する」とした提案を受け入れた。2014年3月からの10年契約で、フィリップスは25の駐車場にある1万3000以上ある照明器具をLEDに交換し、それらをアダプティブにコントロールしている。省エネ効果としても、68%の電力削減が予定されている。

 LaaSの事例には、IoTと、ビッグデータ応用、サービス化のすべての要素が含まれている。照明およびセンサーがIoTとして安全でセキュアに接続され、その接続を通してリモートから照明器具自身の状況および、日照時間や駐車場の明るさ、駐車場使用の有無、LEDの稼働時間、温度といった環境条件を収集。それらがビッグデータとして蓄積され、時々の条件に応じて照明のオン/オフおよび明るさをダイナミックに制御する。

 さらに蓄積した稼働時間や環境条件の情報から機器の寿命を予測し、予防保守や素早いリペア(修理)に利用する。駐車場使用の有無や環境条件といったデータは、LaaS以外の応用にもつながっていく。

 より安く寿命の長いLED等の製品の商品化は、製品販売という面では、売り上げの減少に繋がるが、サービスとしては利益率向上に役立つ。モニタリングとコントロールの方法の改善や自動化も、運用コストの低減という形で利益の向上に繋がる。また良い製品、良いコントロールによって省エネが実現できるというメリットも実現できる。

使う側と提供する側にメリットがあれば好循環が生まれる

 IoTとビッグデータを利用したサービスモデルは、使う側と提供する側のそれぞれに、以下のメリットを提供する。

使う側のメリット
・オペレーションに関する人材・スキルを必要としなくなる
・経費として予算が立てやすくなる
・コスト削減が実現できる

提供する側のメリット
・一時的な売上金額は低くなるものの、長期間の安定した収入源を確保できる
・顧客との関係強化につながる
・より良い製品開発や、モニタリングとコントロールの方法の改善につながる

 使う側と提供する側にメリットがあることで、IoTやビッグデータ(およびその解析)のテクノロジーがビジネスモデルの中で利用される。そのビジネス自身が新たな価値を生み出すことによって、テクノロジーの適用範囲がさらに広がるという好循環が生み出されるわけだ。

 こうした好循環は、第2回でも触れたように、クラウドでも同様のことが言える。クラウドサービスの提供者は、安全でセキュアで、かつ安価なサービスを目標に、クラウドを構築するための設備や、機器、人材、運用体制に工夫を凝らしている。一方の使う側は、必要なサービスを必要な時に使用することによって、人材やコストの面でメリットを享受できる。

「ネットとつながっている」ことで実現方法は複数ある

 フィリップスのLaaSのようなケースがより広がっていくためには、IoTで接続される機器や、ビッグデータ関連技術によるデータ収集・解析・予測、そして自動化のテクノロジーが重要になってくる。この流れによって、市場や顧客が望む機能をどう実現するかの方法が変わってくる(図1)。

図1:IoT/ビッグデータ時代のモノが備える機能の例 図1:IoT/ビッグデータ時代のモノが備える機能の例
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 機能を提供する際の選択肢としては、以下の点を考えなければいけない。

(1)ハードウェアかソフトウェアか
機能をハードウェアで実現するのか、ソフトウェアで実現するのかを考える。ソフトウェアを選べば柔軟性・拡張性を実現できるが、省エネや省スペースの観点からは一般的にハードウェアの方が優れている。

(2)機器への組み込みかクラウドで提供するか
機器とクラウドが協調するモデルが一般的になればなるほど、IoT環境との接続が必要になる。そこでは、機器とクラウドをつなぐネットワークの品質やスピード、リアルタイム性の違いが、機器とクラウドを連携して実現する場合の機能分割に影響が出てくる。

(3)製品かサービスか
製品販売という見方だけでなく、LaaSのようなサービスとしての提供も検討すべきである。その場合、顧客側と提供側それぞれのメリットと、提供側の財務基盤を考慮する必要がある。

 (1)に関しては、第7回のビッグデータ動向でも触れたように、今後はソフトウェアの比率が高まっていく。例えば、米GEが推進する「Industrial Internet(インダストリアル・インターネット)」では、プラットフォームの設計思想の中に、「マシンセントリック」という項目を設け、次のようにうたっている。

・接続の標準化を図り、機器をIndustrial Internetに簡単に接続できるようにする
・機器としてアナリティックス機能を備え、よりインテリジェントにする
・ソフトウェアによって機能変更を可能にし、かつソフトウェアの変更方法を標準化する

 機器が独立して動くのではなく、IoTに接続され、ソフトウェアによって機能を拡張でき、機器とクラウドが連携して機能を実現する動きが、ますます盛んになってくるだろう。

 例えば、自動車業界では、2014年1月に米Googleと独Audi、米GM、本田技研工業などが、自動車へのAndroid搭載促進を目指す「Open Automotive Alliance(OAA)」を設立した。Androidのオープンな開発モデルと共通のプラットフォームを活用し、自動車とAndroid搭載端末の、より高度な統合と、自動車そのものを、ネットワーク接続されたAndroidデバイスにするための機能の開発にも取り組むとする。IoTがいう、インターネットとモノ、モノとモノのつながりを自動車の世界で実現しようとする動きだ。

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