街中にあまたある調剤薬局。患者さんから積極的に選ばれる存在になるためには、どんなビジネス展開が必要となるのか。アイセイ薬局は、お薬手帳の電子化を基軸に、治療成績を向上させるための新システムを立ち上げた。プロジェクトに関わったキーパーソンに話を聞いた。
──顧客との“つながり”を強化するために、スマートフォン向けアプリの活用を中心とする改革に取り組んでいると伺いました。貴社の立場からすると患者さんと表現するのが適切かもしれません。
岩崎 当社は全国に300店舗弱の調剤薬局を展開しています。業界では6番手といったところでしょうか。今回の取り組みをご説明する前に、まずは調剤薬局を取り巻く昨今の状況をお話しておきましょう。
風邪をひくなどして病院にかかった時、医師が処方した薬を受け取りに行くのが調剤薬局。実は全国に5万5000店舗ほどあって、コンビニよりも多いんですよ。しかも、ほとんどが“パパママ薬局”と呼ばれている個人経営規模の薬局。アインファーマシーズさんや日本調剤さんを筆頭に大手10社が占めるシェアは1割に届いていないのが実情です。そこで何が起きているかというと、様々な意味でスケールメリットを出すために、大手によるM&Aがにわかに激化しているんです。
一方で、患者さんの立場からすると、薬局のサービスってコモディティ化しているように映り、特定の薬局チェーンを選ぶ理由はそうそう無いんです。病院、あるいは帰り道の近くの薬局を優先し、もしそこが混雑していたら、また別の薬局にすればいいや、って感じなのです。
お薬手帳のモバイルアプリで患者志向のビジネスを再考
──確かにそうですね。処方箋を持って行けば所定の薬が出てくるわけですから、“ガラスの向こう”のオペレーションや、そもそもの薬局のブランドを気にしない人が多いような…。
岩崎 誤解を恐れずに言うと、薬局が患者さんより“病院側”の動きを気にしているという側面も少なからずあるように思うんです。
大病院が新設されるなんて噂を聞きつけると、大手薬局がその場所の周囲の一等地を我先に買い付けるなどは典型例です。つまりは何よりも立地戦略が重要という考え方が根強い。
個人開業を検討している医師の情報を常日頃から気にかけていて、適切なタイミングで複数の科目を集約した医療モールを企画して提案。各医師の初期負担を抑えつつ、薬局側はすべての病院の薬剤を提供してWin-Winの関係になるというのも、よくあるビジネススキームです。
もっとも、こうした領域は資金力がものを言います。当社はトップ10に入るとはいえポジション的には安泰とは言えず、他社とは違う戦い方というかアイデンティティのようなものを確立していかなければいけないと痛切に感じていたのです。
──そのあたりの問題意識が今回のプロジェクトにつながったようですね。ここで、取り組みの概要を説明いただけますか。
石川 見た目として分かりやすいものから説明すると、お薬手帳を電子化してスマートフォンで使えるようにするアプリ「おくすりPASS」を開発し、今年5月から提供を始めました。それと連動する形で、バックエンドにはCRM(顧客関係管理)システムも構築しています。服薬に関するデータを一元的に管理するもので、システム基盤にはAWS(Amazon Web Services)のクラウドサービスを活用しました。
「おくすりPASS」アプリの直近(編集部注:2014年8月18日時点)のダウンロード実績は2500を超えました。またCRMに登録する患者さんの総数は1700人弱といったところです。
岩崎 と言ってしまえば話は簡単なんですが、ここにたどり着くまでの道のりが結構大変で…(苦笑)。
──お薬手帳? 詳しく知らないのですが、これは何でしょう。
岩崎 病院にかからない方には耳新しい言葉かもしれませんね。患者さんがどんな薬を飲んでいるのか、既往症やアレルギーはあるのかなどを記録した紙の手帳です。薬には、一緒に飲んではいけない組み合わせなどがあります。1人の患者さんが、複数の病院にかかっている場合など、健康被害のリスクを下げる目的で、医師や薬剤師がお薬手帳の内容を確認して、薬を出すようにしているんです。本格的に使われるようになったのは2000年以降のことですね。
もっとも、手帳の管理は患者さんに任されているので必ずしも有効に機能しているとは言い切れません。家に置き忘れてきたり、紛失してしまったり、大事な場面で活用されていないことも間々あります。
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