[ザ・プロジェクト]
製造と働き方の未来へ、デジタルで生まれ変わる巨人GE
2016年4月8日(金)河原 潤(IT Leaders編集部)
航空・運輸、エネルギー、医療、化学、金融、家電……手がけていない分野を探すほうが難しいほど、ゼネラル・エレクトリック(GE)の事業領域は多岐にわたる。そんな産業界の巨人が危機感をあらわにし、生き残りを賭けてハードウェア主体の従来型ビジネスから、「デジタルインダストリアルカンパニー」への転換に挑んでいる。GEの事業改革の軌跡と最新ビジョンを、日本GE 代表取締役兼CEOの熊谷昭彦氏によるデータマネジメント2016の基調講演から紹介する。
2015年のグループ総売上高が約1174億米ドル(約13兆6000億円)、営業利益が約180億米ドル(約2兆1000億円)と、中堅国家予算レベルのビジネスを展開するGE。創業120年の軌跡は、時代折々の社会・市場ニーズに応えてきた歴史でもある。
事業改革の端緒は、ジェフリー・イメルト(Jeffrey Immelt)氏がCEOに就任した2000年だ。以降、選択と集中でポートフォリオがどんどん入れ替わっていった。象徴的だったのが2007年のプラスティック部門売却だ。日本GE 代表取締役兼CEOの熊谷昭彦氏(写真1)は次のように振り返る。「プラスティックはGEの中でも長らく花形ビジネスで、何と言っても、前CEOのジャック・ウェルチ(John Francis "Jack" Welch)が生み育てた事業でもあった。しかし、それでも時代の移り変わりから、GEの今後のビジネスには合わないという決断をした」
2010年代に入って各業界でグローバル規模の再編が進むと、GEのポートフォリオの入れ替えはさらに加速した。2011年に傘下のNBC(National Broadcasting Company)を売却し、2015年3月には金融事業GEキャピタルの撤退計画を発表。一時はGE全体の半分以上の利益を生み出していたGEキャピタルの事業売却という決断は世界の産業界を驚かせた。
「GEキャピタルの事業売却が決まり、『本家本元の製造業に戻るんだ』という方向に突き進むことになった」と熊谷氏。そして2015年末には、フランスの大手重工グループであるアルストム(Alstom)の電力インフラ事業部門を買収してGEパワーへの統合をはたす。「インフラ事業を主体としたインダストリアルカンパニー」(同氏)というのが、GEの今日の姿である。
デジタルインダストリアルカンパニーへの挑戦
インフラ事業主体のインダストリアルカンパニーへの転換はGEにとってのゴールではない。全社を挙げて数年来取り組む事業改革の端緒にあたる。そして、その先の姿として描かれたのが「デジタルインダストリアルカンパニー」だ。
ビジネスのデジタル化、デジタライゼーション(Digitalization)は昨今、次世代のビジネスを語る際の常套句になりつつある。GEの場合、2012年に業界に先駆けてインダストリアルインターネットのビジョンを掲げ、今日のIoTにつながる取り組みに着手済みである(画面1)。つまり、デジタル化への取り組みにおいて世界の先駆的位置につけていると言える。
改革は4、5年前から始まり、今はその変革の真っ最中にある、と熊谷氏。同氏によると、GEが挑む新たなチャレンジは、「デジタルインダストリアルカンパニーという新しい会社を作るようなもの」であり、氏のGE在籍32年の中でも最大の改革に相当するという。「デジタルをフルに活用した次世代製造業が、この先あるべきGEの姿だ。これまでのGEはどちらかというとテクノロジー主体のハードウェア企業だった。今後は、それにソフトウェア企業の側面が加わる」(同氏)
「The Future of Work」の3つの原動力
GEは製造業の将来を「The Future of Work」と呼び、それは3つの原動力からなる。1つ目はインダストリアルインターネット、すなわちIoTだ。2つ目は「アドバンストマニュファクチャリング」で、これは最新の製造技術・手法が可能にする製造の次世代スタイルを指している。3つ目は「グローバルブレイン」で、オープンイノベーションの発想で世界中のさまざまなアイデアを取り入れ、それを製品に組み込んでいくアプローチだ。
1つ目の原動力、インダストリアルインターネットについてGEは、最新ビジョンとして、多様な産業機器やデータを知見に変え、顧客に対して生産効率化につながるIoTソリューション/ソフトウェアを開発・提供していく方針を打ち出している。
同ビジョンに基づくGEの事業改革の一例はこうだ。――ジェットエンジンや医療機器などの産業機器をネットワークで結び、大量のセンサーデータや機器の稼働情報などを収集・分析。機器の生産性や稼働率の向上、あるいは予期せぬ故障をゼロにする予防保全を可能にする――。その実現にあたって同社は、ビッグデータ分析、エンジニアリングプロセスの最適化、次世代製造技術の採用など、さまざまなアプローチを果敢に取り入れている。
「事業改革を成し遂げるカギとして、我々はインダストリアルインターネットに賭ける。実際、すでにさまざまな投資を重ねて体制を整えている」と熊谷氏。例えば、2011年末には約10億ドル(約1200億円)を投じて、米カリフォルニア州シリコンバレーにソフトウェア専門のR&D拠点「GEグローバル・ソフトウェアセンター」を開設し、現在約1200名のソフトウェアエンジニアが勤務している。熊谷氏は、初めて同センターを訪れたときに受けた強い印象をこのように語る。
「ジーンズにスニーカーでオフィスを闊歩する若者たちはシリコンバレーのソフトウェア企業そのもので、これが本当にGEのセンターなのかと驚いた。このようなカルチャーがまさに新しいGEの顔であり、どんどんビジネスの中心になり始めている」
オープンなIoT開発環境の「Predix」
同センターを中核としたR&Dの成果の1つに、IoTソリューション/ソフトウェアを開発するための共通プラットフォーム「Predix」がある。「蓄積した技術を基にハードウェアを作って販売するというのがこれまでのGEのモデル、いわゆる箱売りである。だが今後はPredixプラットフォームを起点に、ハードウェアだけではなく、そこに付加価値をもたらすIoTのソフトウェアやソリューションを開発・販売するビジネスが加わる」(熊谷氏)
現在、GEは、PredixをPaaSの形態でオープンに提供してパートナーを広く募っている。その入り口となるのが、Predixプラットフォームの開発者向けポータル「Predix.io」(画面2)だ。開発者や企業は、ここでIoT開発に関するパートナーシップ登録を行うことでPredixを自由に使えるようになる。また、同社がレゴブロックと呼ぶIoTソフトウェア開発の基本モジュールが豊富に用意され、それらを組み合わせて必要なソフトウェアやソリューションを構築するといった利用が可能になっている。
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