[ザ・プロジェクト]
サブスクリプション時代に備えたクラウド第2ステージの開始―コニカミノルタ
2016年12月22日(木)佃 均(ITジャーナリスト)
コニカミノルタが「攻めのIT経営銘柄」に選定された事由は、ITを駆使した「デジタルマニュファクチャリング(DMF)」と「グローバルサポートセンター」だ。ところが同社は近未来の企業像として「課題解決型デジタルカンパニー」を掲げ、IoT(Internet of Things)だのクラウドだのを1つも2つも先を見越している。それだけに、執行役 IT企画部長・田井昭氏が本誌に登場するのは一度ならず。さて、今回はどんな話が聞けるだろうか。
ハードルは高い方が面白い
取材の冒頭、今年10月25日付で掲載した山名昌衛社長の講演「コニカミノルタのデジタル変革戦略、30年後も生き残る会社に向けた経営者の決意」に話を振ると、
「そうなんですよ。山名(昌衛社長)は次の事業を考えてまして」
田井氏は続ける。
2003年、写真フィルム/複写機メーカーのコニカ、カメラ/複写機メーカーのミノルタが経営統合し、06年に本業だったカメラとフィルム事業から撤退した。現在はMFP(Multi-Functional Peripheral:複合機)やヘルスケア機器、計測機器などが中核だ。
「金額ベースでMFP事業は伸びているんですが、成熟市場でサブスクリプション(有期契約の従量課金)化していますからね。それで社長は先のことをどんどん話す。社員からすると頼もしいのですが、我々はそれを実現するのが仕事ですから、ハードルが上がる一方です」
だから面白い、と目が笑っている。
田井氏が約30年を過ごしたオフィス機器の研究開発部門から、IT部門に異動したのは2011年。それからの3年間を過去のインタビューで振り返ると(順不同)、
・グループのIT部門を統合し、本社60人、IT子会社コニカミノルタ情報システム200人体制に。
・NTTコミュニケーションズのデータセンターサービス「Nexcenter」、クラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」を採用。
・グローバルのマスターデータを統一し、これをもとに日米欧アジア4極のグローバルMDM(マスターデータマネージメント)とBPMを推進。
・標準クラウドとしてアマゾンの「AWS」、マイクロソフトの「Azure」を採用、オンプレの仮想化環境と用途で使い分け。
・セキュリティ対策を強化。
・日本語・英語・中国語対応のヘルプデスクサービスをスタート。
・コニカミノルタのユーザー向けクラウドサービス「INFO-Palette Cloud」の提供開始。
インタビューしたのは2014年6月なので、3年間でグローバルなIT基盤にほぼ目途をつけたことになる。IT部門の再編、データ構造やコードの標準化、ITシステム運用ルールとビジネスプロセスの共通化、さらにグローバル規模で事業運営にかかわる主要なシステムの最適化……と、全力で疾走してきたことは想像に難くない。
「アジア地域では商習慣の壁もあって、ERPが効果を上げるのはこれから。それも含めて、“わたし、失敗しないので”です(笑)」
想定外のセリフが飛び出した。
「グローバルで共通化すべきこと、ローカルの長所を生かすことを整理しまして、日本で作ったたたき台を年2回のグローバルなIT担当者の会議で決めていくわけです。その取り組みを通じて守りから攻めへ、IT部門の意識改革をやり、要員の入れ替えも行い、いまでは英語で仕事をするのが当たり前、クラウドに抵抗感を持つ人はいなくなりました」
田井氏の“わたし、失敗しないので”は、“成功するまであきらめない”という意思の表明だったのだ。
まず IT部門の意識を変えた
IT部門の意識を変えるために、田井氏は3つの方針を立てたという。まず「何でもいいから、これは面白そうだと思うものをどんどん取り入れろ」と指示を出した。スマートフォン、タブレット、SNS、テレビ会議システム、シェアポイントなどを次々に自分たちで使ってみて、よければ横展開していく。
「トライ&エラーの連続でした。思ったような成果が出ない、うまく行かないという場合、なぜか、を考えるようにしました。そうじゃないと、新しいことに思い切って取り組むなんて、とてもできない」
障害で止まってもいい、とすら言った。実際、メールシステムが動かなくなったこともあった。
「クラウドやシェアードサービスを使うというのは、何かあったとき、自分たちが直接手を出せないし、一定のリードタイムが発生するということです。また昔に比べてソフトウェア比率が増加してシステム全体としての品質が低下している、ということを認識して覚悟する。それを前提に、SLA(Service Level Agreement)をどう設定するか」
システムトラブルを完全になくすのは無理。限りなく100%に近づけるために、限りなく費用と人手を投入できるわけでもない。研究開発部門の経験からすると当然の帰結だった。
「もう一つは、実績重視の考え方を変えたこと。お客様にITサービスを提供していこう、“デジタル・ソリューション・カンパニー”を標榜している自分たちが、最初の成功事例にならなければ、お客様に提案はできない」
変えないことのリスクもある。安定志向で自社システムを変えなかったとしても、周りがどんどん新しくなって行く。そうするとシステム間のギャップが開いて行く。システム間のインターフェースが合わなくなる。データ構造が違う。結果として、より多くのトラブル要因を抱え込むことになる。
なぜうまく行かないか、うまく行くようにするには何をしなければならないか、どこがポイントか、止まったときどうリカバーするか等々が蓄積され、それが全社的に共有するノウハウになって行く。
「3つ目はシステムを自分たちで作るようにしたこと。ERPをはじめ主要なシステムはパッケージ、そのカスタマイズは一部を除いて外部のITベンダーに発注して、自分たちはプロジェクト・マネジメントと運用保守。これじゃダメということで、これから当社のコアになると思われるアプリケーションの手作りを始めました。」
品質と安全性が担保されるOSSを採用し、開発環境をウォーターフォール型にクラウド型を加えた。「それがすべてではないけれど、マイクロサービスのエコシステム時代に対応できる力を付けなければ」と続ける。
次のステージのクラウドサービス
現在、利用しているクラウドサービスはコニカミノルタの独自クラウドを始め、NTTコミュニケーションズ「Bizホスティング Enterprise Cloud」、マイクロソフト「Azure」、アマゾン「AWS」の計4つ。
「Bizホスティング Enterprise Cloud」でアジア・中東地域10ヶ国の販売会社の基幹システムを統合し、「AWS」「Azure」とシームレスに連携する。マルチインスタンス・マルチリージョンのOffice356で社内コミュニケーション、情報共有、業務改革を計画する。クラウドを基幹システムのバックアップや、MFPユーザー向けのITサービスに活用する。
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