AI活用は小売業の現場でも急速に広がっている。福岡を地盤に全国でディスカウントスーパー「TRIAL」を展開するトライアルカンパニーもその1つ。自社開発の小型カメラ「リテールAIカメラ」を店舗に配備して、商品管理や顧客の購買行動を分析するという取り組みを行っている。2019年5月20日開催の「IBM POWER AI FORUM 2019」に登壇したトライアルホールディングスCTOでRetail AI取締役の松下伸行氏がプロジェクトの経緯と詳細を詳らかにした。
先進ITを駆使して事業拡大するトライアル
ディスカウントスーパー「TRIAL」を全国214店舗で展開し、年に3940億円(2018年3月期)を売り上げるトライアルホールディングス(本社:福岡県福岡市)。1980年代の創業時から「ITで流通を変える」ことをテーマに、小売・流通業にフォーカスしたIT活用で事業を拡大してきた。2018年11月にはリテールAI技術の活用を目指した新会社Retail AIを設立。大手電機メーカーやAIベンチャー出身のエンジニアを集結させ、小売の現場でさまざまな新しい取り組みを展開している。
そんな同社が今取り組んでいるのが、店舗内に設置したネットワークカメラで商品や顧客の購買行動を記録し、それらをAIで分析して業務改善や販売促進などにつなげる施策だ。2018年に、スーパーセンタートライアル アイランドシティ店やトライアル Quick 大野城店で施策を開始。2019年4月には最大級の売り場面積を持つフラッグシップ店舗のメガセンタートライアル新宮店をリニューアルオープンさせ、独自開発した「リテールAIカメラ」を1500台導入して、取り組みを加速させている。同社CTOでRetail AI取締役の松下伸行氏(写真1)はその狙いについて次のように説明する。
「画像認識は高価なコンピューティング環境が必要でしたが、今はスマートフォンで高度な認識が簡単にできるようになりました。男性の顔をリアルタイムに女性に入れ替えるといったことまでできてしまう。小売業の店舗にもたくさんのカメラがありますから、そこで何人が通過したか、どの棚で立ち止まり手を伸ばしたかなどもわかります。これまでは人間の目で判断してきた現場に『機械の目』を入れる。それにより、ECでは当たり前の商品と人とのマッチングをリアル店舗でも行えるようにする。それが我々のやろうとしていることです」(松下氏)
ソニー出身の松下氏、カメラやスマホの知見・ノウハウを投入
松下氏は、ソニーでデジタルカメラ「Cyber-shot」やスマートフォン「Xperia」の開発などに携わった経験を持ち、それらの知見やノウハウを新宮店の取り組みに生かしている。例えば、新たに開発したリテールAIカメラは、Androidベースのモバイルデバイスでソニー製カメラモジュールを搭載している。また製造は中国・深圳の協力企業に製造を依頼したが、その際にはコストを抑えながら現場で必要となる機能だけを盛り込んだ(写真2)。
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「メーカーでものを作ってきたテクニックを徹底的に使って、コストをとことん安くしています。店舗で商品を認識するには、1000万画素以上の解像度とオートフォーカスが必要ですが、それができる最も入手しやすいデバイスはAndroidスマートフォンです」(松下氏)
ただし、この環境でAndroidスマートフォンはカメラを連続動作させると、1カ月あたりで全体の10%がフリーズするといった問題があった。実際、先行して取り組みを開始したアイランドシティ店や大野城店ではAndroidスマートフォンでAI画像認識を行っていたが、デバイスが停止するたびにスタッフが電源ボタンを長押しして手動で再起動させる必要があったという。そうした課題を解消するために独自開発したのがリテールAIカメラというわけだ。
リテールAIカメラは商品タグと同じぐらいのサイズのボディで、商品棚に違和感なく据え付けることができる。1300万画素のカメラ、CPUとGPUを備え、電源はUSBから供給しバッテリーを備える。Wi-Fi、Bluetooth、有線LANで通信でき、遠隔から電源のオン/オフも可能だ。また、HDMIポートを備えるため、デジタルサイネージのセットトップボックスとしても機能する。ネットワークカメラでありながら、簡単な演算処理も可能なエッジコンピューティングデバイスになるものだ(写真3)。
●Next:トライアルの店舗に設置された「リテールAIカメラ」が何を実現したか?
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