デジタルトランスフォーメーション時代の基幹系システム、その要件:第1回
2019年10月7日(月)磯谷 元伸(NTTデータ グローバルソリューションズ 代表取締役社長)
連載「『2025年の崖』に立ち向かうERP刷新プロジェクトの勘どころ」では、グローバル経営を進める日本企業が抱える課題に着目し、老朽化し個別最適化した基幹系システムをどのように刷新すればよいかについて解説した。今回はその続編=「2025年の崖のその先」として、既存システムとの違い、クラウドで稼働する基幹系システムの価値などについて考察し、DX時代に求められる基幹系システムの将来像を明らかにしていきたい。
基幹系システムを支えるデジタル化のインパクト
基幹系システムにおいては、レガシー時代からアーキテクチャの絶え間ない進化が続いている。ここではデジタルトランスフォーメーション(DX)時代の基幹システムに必須条件として、「リアルタイム処理」「ビッグデータ」「クラウド疎結合」の3つを挙げ、そのインパクトについて解説する。
1. バッチ処理からリアルタイム処理へ
メインフレーム(汎用機)やオフィスコンピュータ(オフコン)の時代は、伝票処理や売上が、日次や月次バッチで集計処理されていた。システム間インタフェースも同じく、日次や月次でまとめてファイル転送される処理方式やアーキテクチャを使っていた。日本には、こういったレガシーなアーキテクチャを踏襲している基幹系システムがまだまだ残っている。
一世代進んで、RDB(リレーショナルデータベース)ベースのERPや各種業務アプリケーションが主流になり、インプットされたトランザクションデータ(伝票)はリアルタイムで参照できるようになった。一方で集計データについては、コンピュータリソースや処理タイミング、配賦ロジックなどさまざまな制約により、いまだに月次単位のみや週次・日次単位にとどまっているシステムが多いと思われる。
10年以上前に比べれば、オンプレミス/クラウドに関わらずコンピュータの処理性能は飛躍的に伸びているし、「SAP HANA」や「Apache Hadoop」など大量データ分析用のアーキテクチャも確立されている。コンピュータリソースの制約はかなり低減されてきている。
リアルタイム性/速報性が事業経営上や競争戦略上、真に必要であれば、次の基幹系システムでは確実に実現していく必要がある。元々、標準原価計算の導入も MRP(Material Requirement Planning:資材調達計画)からAPS(Advanced Planning and Scheduling:生産計画スケジューラ)への流れも、いち早く現場情報を捉え、次の業務指示や戦術転換を図っていくことにあった。
本当に把握したい情報や価値ある分析を追い求め、情報システム部門はビジネス部門(業務部門)とも熱い議論を戦わせ、次期基幹系システムの姿を考えていかなくてはならない。既存の基幹系システムの処理ロジックがバッチ処理を前提に作られているならば、これからの基幹系システムを価値あるものにするために刷新を考えていくべきだ。
2. 定型業務データからビッグデータへ
これまで基幹系システムが持つ業務データは、伝票入力されていたり、生産実績であったり、いわば従来、紙ベースのものを台帳管理していたものに限られていた。一方、周辺系システムとも位置づけられるMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)やCRM/SFA領域にも、製品歩留りや設備稼働率などの生産現場情報、顧客ごとの購買頻度やコンタクト情報、各種問い合わせやクレーム情報などが蓄積されている。
IoTを使えば、さらに詳細な製品使用状況や生産設備の稼働情報が手に入れられるし、SoEの領域からはソーシャルメディアの情報が収集できる。
情報系システムと呼ばれている領域は、どんどん広がっている。単に基幹系システムの定型的な業務データを分析していた時代から、周辺系システムで持っているデータとの相関分析、顧客の声やソーシャルメディアなど非定型情報との分析まで含まれるようになった。また、分析側もBIからAI活用へとレベルアップし、より正確な未来予測・シミュレーションが可能になってきている。
ビッグデータは、何もGAFAが独占しているわけではない。皆さんの会社の中にも現場にあるデータを集約してみれば、貴重な情報、そして隠された事実が眠っているはずだ。企業のあちこちに分散している情報こそビッグデータで、実は“宝の山”なのだ。
3. オンプレミス密結合からクラウド疎結合へ
3番目に、オンプレミスシステムのクラウド化、特にSaaS(Software as a Service)を中心としたアプリケーション面について考察したい。
オンプレミス環境において、その中心にERP等の標準的なパッケージ製品を入れていたとしても、他のシステムとの間はEAI(Enterprise Application Integration)を介したファイル渡しやコード変更、データ前処理などが必要となる。アーキテクチャやDB構造が異なるからだ。これがスパゲッティ状態を生み出す1つの要因となっている。
20年以上前は、メーカー・ベンダーごとにアーキテクチャが異なっていた。そのため、同じハードウェア、単一DB製品、同一プロトコルに合わせて、数多くのアプリケーションを単一アーキテクチャ上で密結合させる方が現実的だった。多くのベンダーもそれを推奨していた。
その後、システム間を疎結合でつなぐ方式としてSOA(Service Oriented Architecture)が登場した。現代提供されているクラウドサービス/アプリケーションはどれも疎結合でつなぐコネクタを数多くサポートしている。ERPやCRM、コラボレーションサービスやファイル共有サービス等々だ。それぞれ特徴を見極めながら、クラウドサービスを連携させ、使い倒すことで企業システムを構築することも可能だし、ベンチャー企業では始めからこの方針で社内システムを構築している企業も多い。
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