「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、TERRANET代表 寺嶋一郎氏によるオピニオンである。
皆様、2022年もよろしくお願いします。今年こそパンデミックを終わらせて素晴らしい年にしたいですね。さて、ここから本題です。
関心高まるウェルビーイングとは?
2021年あたりから「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉をよく聞くようになった。直訳では幸福や健康だが、実際には肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた幸福な状態を指すとされる。それは、単にお金があったり、健康であったり、南の島で気ままに過ごしているような状態でもない。ウェルビーイングの本質は「持続的によりよい状態になること」だ。
ウェルビーイングを目指すのは人に限ったことではなく、企業も同じだろう。一時的な繁栄ではなく、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)でもよく言われるサステナブル(Sustainable)に繁栄できる会社でありたい。実際、少し前に話題になった、従業員などの健康管理を経営的な視点で考える「健康経営」の先を目指す概念として、「ウェルビーイング経営」が注目されるようになってきた。社員の心身の健康だけではなく、仕事へのやる気や組織へのエンゲージメントを高めようとする経営手法のことを言う。
社員にとって、やりがいを持って生き生きと働ける職場があり、健康で安心して働けることはまさに「幸福な状態」であり、社員の満足度や企業へのエンゲージメントの向上が期待できる。そういった職場環境を持つ企業は、学生が就職先を選ぶときにも魅力的に映り、優秀な社員が辞めていくのを防ぐことにもなる。
企業がウェルビーイングであれば従業員もウェルビーイングになり、その事業は人々のウェルビーイングをもたらす。すなわちより良い社会にするために役立っている。そうした社会に貢献する価値をもたらす結果として、利益も出ているという状態になることだろう。
近江商人の「三方よし」に通じる
こうしたウェルビーイング経営の考え方は、近江商人の経営哲学である「三方よし」という考えや、日本資本主義の父とも称される渋沢栄一の考え方と軌を一にする。「売り手(企業側)よし、買い手(消費者側)よし、世間(社会的意義)よし」という、近江商人の三方よしの精神は、持続可能性の高い企業の理念の根底に引き継がれているし、企業とは公益を追求する使命や目的を持たなければならないとする「論語と算盤」に代表される渋沢栄一の考え方も、まさにこのウェルビーイング経営ではないかと思う。
近年では、資本主義の権化のような欧米の投資家からも雇用を優先し、取引先に気を配り、持続性のある企業こそが素晴らしいという声が上がってきている。例えば米国最大規模の経営者団体、ビジネスラウンドテーブル(BR:Business Roundtable)は2019年、「これまでの株主第一主義を根本から見直すことを宣言する」という声明を出した(声明文)。尊重する利害関係者の優先順位を、①顧客、②従業員、③取引先、④地域社会、⑤株主とし、何と株主利益を5番目に位置づけたのだ。この声明文の正式名称は「Purpose of a Corporation:企業のパーパス(存在意義)に関する宣言」で、最近注目を集めるパーパス経営にもリンクしている。
ちなみに、BRは1997年に「株主第一主義」を宣言している。22年を経て同じ経営者団体が「脱・株主至上主義」に転じたわけで、株主資本主義や米国型経営が、大きな転換点を迎えていることを物語っている。
筆者はここ数年、盛んに叫ばれているデジタルトランスフォーメーション(DX)も、このウェルビーイング経営に資するものであるべきだと思っている。DXとは同時多発的に出現するさまざまなデジタル技術を前提とし、それを活用して急激な環境変化に俊敏に対応できるように企業体質やビジネスモデルを変えていく(Transform)ことと考えるからである。
2年前にこのパンデミックが世界を襲う急激な変化を予測した人はいないだろう。それくらい今は何が起きるかわからない、未来の予測が困難な時代である。とすれば、予測できない変化にいかに素早く、そして柔軟に対応できるかが、企業が生き残るうえで避けては通れない。今回のコロナ禍でも、例えば飲食業界においては、素早くネットデリバリーを採用したところは大打撃を受けなくて済んだはずだ。
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