「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、TERRANET 代表の寺嶋一郎氏によるオピニオンである。
2023年が始まり、すでにひと月。この1年が皆さんにとって良い年となることを祈念します。
さて、この数年デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれ、多くの企業が取り組んでいます。デジタル時代とも呼ばれる現在は、新たなITやデジタルテクノロジーが同時多発的に出現し、社会を支える仕組みがどんどん変わっています。20年ほど前と現在では、買い物も何かの予約も他社とのコミュニケーションも一変したと言っていいでしょう。スマホやネットのない世界は考えられないのではないでしょうか。どこでもネットがつながり、どんなことでもググることで必要な情報を一瞬にして手にすることができます。
それに輪をかけたのがコロナ禍でしょう。Web会議やリモートワークの実用性が広く認識され、ZoomやTeamsなどのツールは今や完全に市民権を得ました(写真1)。そればかりか、常にネットにつながっているオンラインの世界の中に時折リアルがあるという、「アフターデジタル」と呼ばれる世界に突入したとも言われます。
DXの本筋は企業をトランスフォームすること
筆者は、現役時代に工業化住宅にかかわるシステムの仕事をしていました。当時、営業担当者は施主と打ち合わせて施工日程を決めていました。会社のリソースを考慮しながら調整するのですが、施主にとってそれはどうでもよく、大安吉日などできるだけ日柄のよい日に棟上げしたいと考えます。この調整は結構やっかいで、何とかシステム化できないかと模索したのですが、なかなかよい仕組みはできませんでした。今のようにネットとスマホがあれば、電車の予約システムのような仕組みをすぐに作れたはずです。
これは単純な例ですが、どこでもいつでもネットにつながるデバイスの出現は、今までできなかったことを可能にしました。多くのマッチングサービスやシェアドサービスなどが生まれ、新しいワークスタイルがこうしたデジタル技術で生まれました。以前は考えることさえできなかったシステム化が、新しい技術で可能となったのです。
できなかったことを可能にするデジタル技術は、多くの企業に変革を迫ります。デジタルはまったく違う業界やスタートアップからの参入の障壁を下げてしまい、ボーッとしているとGAFAMなどの巨大ネット企業はもちろん、スタートアップ企業が自分たちのマーケットに参入し、あっという間に市場を奪われるかもしれないのです。いわゆるデジタルディスラプション(Digital Disruption)への対応であり、だからこそのDXです。
でも、考えてみてください。ディスラプションされるという恐怖心からDXを推進するのではなく、デジタル技術を活用して以前はできなかったすばらしい価値を顧客に提供できると考えたほうがワクワクしませんか? ディスラプションされないように効率化や生産性向上を成し遂げるのは大事ですが、それは守りにすぎません。
DXの本筋はそうではなく、顧客や社会に新たな価値を提供できるよう攻めの体質になるべく、企業をトランスフォーム(形質転換)することにあります。今の日本で、本来の意味でのDXを推進できている企業がまだまだ少ないのは、こうした新たなすばらしい価値を顧客に提供するという、やるべきことが描けてないからではないでしょうか。デジタル時代をチャンスと捉えて、これまで諦めていた、あるいは実現できなかった商品やサービスを創造していきたいものです。
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