[市場動向]

26年目のクラウドERPは「今後も顧客の成長基盤であり続ける」─NetSuiteトップのゴールドバーグ氏

UI/UX刷新、AI新機能、医療ベンチャーの成功事例を紹介

2024年10月3日(木)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

米オラクルの“もう1つのクラウドERP”である「NetSuite」。1998年にSaaSの草分け的存在として登場した歴史の長い製品だが、中堅・中小企業をはじめとする顧客企業の成長を支援する経営管理プラットフォームとして進化を続けている。2024年9月9日~12日(米国現地時間)開催の年次イベント「SuiteWorld 2024」で、NetSuiteトップのエバン・ゴールドバーグ氏が語った内容をお伝えする。

オラクルとの融合で進化を続けるクラウドERP

 「NetSuite」は、まだクラウドという言葉が存在しなかった1998年、「中小企業向けに低価格で利用できるERPを」と、当時、米オラクル(Oracle)の幹部だったエバン・ゴールドバーグ氏(Evan Goldberg)氏が創業した。設立時からラリー・エリソン(Larry Ellison)氏の支援を受けていたが、2016年にオラクルによる買収が完了、現在はアプリケーション事業の1部門となっている。

 創業から26年、現在のNetSuiteの顧客は4万社以上、クラウド企業ランキングの「Forbes Cloud 100」のうち83社がNetSuiteの顧客という。SuiteWorld 2024には世界各国から7500人が来場し、過去最大の規模となった。この盛況ぶりは、今年のSuiteWorldがオラクルの年次イベント「Oracle Cloud World 2024」と同時開催であることも影響しているかもしれない。同じラスベガスの開催で、両イベントの会場は歩いて15分程度の距離だ。

 オラクルとの関係は、製品面でもグッと近くなっている。NetSuiteは2019年にオラクルのIaaS「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」に移行を発表、現在17のOCIリージョンに36のデータセンターを持つ(写真1)。OCIを稼働基盤とすることで、「比類のないセキュリティ、信頼性、アップタイムの提供が可能になった」とゴールドバーグ氏。基調講演で明かされた機能強化においても、OCIをはじめ、オラクルの技術が融合されたことで実現したものがいくつもあった。

写真1:NetSuiteのグローバルの稼働基盤を紹介する米オラクル エグゼクティブバイスプレジデント(EVP)のエバン・ゴールドバーグ氏

 ゴールドバーグ氏は、NetSuiteをビジネス環境の急速変化に適応して成長を続けるための技術基盤と位置づけ、「ビジネスの世界では変化が唯一の定数だ。そこでは変化に適応しなければ死を選択することになる。企業は変化の中で生き残り、成長する方法を見つける必要がある」と述べた。

 次から次へと新しい技術が登場する中で、企業のシステムは一貫性を失い、相互の連携もままならなくなる。「創業以来、NetSuiteは常に組織全体を運営する単一システムというビジョンを持ち続けてきた。導入によって、皆さんのビジネスは相互に繋がる根を張り、栄養を共有して成長する森になることができる」(ゴールドバーグ氏)。

UI/UXを磨き、AIを駆使した今のNetSuite

 歴史のあるクラウドERPであるからこそ、NetSuiteはUI/UXのモダナイズに力を注ぐ。オラクルの新しいUI/UX設計言語である「Redwood Design System」(画面1)をプラットフォーム全体に導入すること、Customer 360ダッシュボードで利用できるようになることを発表した。

画面1:オラクルの新しいUI/UX設計言語「Redwood Design System」のツールキット画面例(出典:米オラクル)
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 Redwoodは、読みやすさ重視のタイポグラフィ、直感的なダッシュボード設計、折りたたみ可能なフィールドグループやリスト、検索フォームなどの特徴を備える。Customer 360ダッシュボードでは、顧客に関する重要な情報を集約して一目で把握できる。加えて、AIを活用したレコメンデーション機能により、営業担当者は効果的にアップセル/クロスセルを実施できるとしている。

 Redwoodの開発に携わった米オラクル UXデザイン部門シニアバイスプレジデントのヒレル・クーパーマン(Hillel Cooperman)氏は、「ソフトウェアがユーザーのニーズに適応すべきで、逆であってはならない」と述べ、新しいUI/UXに自信を見せる。Customer 360、Redwoodの順で、「NetSuite SuiteProjects Pro」そしてアプリケーション全体に適用される予定だ。

 新しいUIの取り組みとしてもう1つ、「NetSuite Financial Exception Management」を示した。AIを駆使して財務取引の例外を自動検出し、パターン外のものがあれば警告を出す。Redwoodの直感的なUIと共に、生じているエラーを容易に特定できるうえ、修正も提案する(写真2)。「AIが現場のチーム・担当者を自然な方法で拡張する。最高のUIは、UIを意識させないことだ」とゴールドバーグ氏はアピールした。

写真2:「NetSuite Financial Exception Management」のデモ画面
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 AIに関しては、NetSuiteアプリケーション全体にAIアシスタントの「Ask Oracle」機能が実装され、自然言語でNetSuiteに質問できるようになる。また、「NetSuite SuiteAnalytics Assistant」も用意され、同様に会話形式でデータの可視化・レポート作成をサポートする。

 ゴールドバーグ氏の基調講演ではこのほか、以下を含む多数の機能強化が紹介された。

NetSuite Enterprise Performance Management(EPM)
 ナラティブレポーティング機能にAIが組み込まれ、データの可視化やストーリーテリングを実現する。「NetSuite Planning and Budgeting」では、AIが生成した予測の背後にある主要な要因を理解できるようになる。

NetSuite Analytics Warehouse
 事前構築されたAIモデルを追加し、より簡単にAIを活用できるようになった。例えば、特定の拠点での在庫切れ予測などが可能になる。また、カスタムのマシンラーニングモデルが提供され、生成AIを使用してさまざまな可視化や、データセットの詳細な説明を得ることができる。

NetSuite Prompt Studio
 生成AIによる「Text Enhance」機能を強化するもので、管理者・開発者が、AIがどのように動作するか、応答の形式やトーンなどを設定できる。

NetSuite Suite Procurement
 新しい間接購買サービスで、購買プロセス全体を自動化する。最初の提携先としてAmazon BusinessとStaples Business Advantageが発表された。

NetSuite Connector for Salesforce
 Salesforce用コネクタで、NetSuite/Salesforce間のデータ同期を自動化し、重複入力を削減する。両方のデータを整合させ、受注や配送に関する詳細や、財務、顧客、連絡先に関する情報の可視性を高める。

Oracle Code Assist SuiteScript optimization
 開発者向けの機能で、AIコードコンパニオンを使ってNetSuiteで拡張やカスタマイズを構築できる。

成功のカギは好奇心─医療系ベンチャーの米バイタライズヘルス

 NetSuiteを活用して急成長を遂げている顧客の1社が、米国のヘルスケア領域のスタートアップ企業、バイタライズヘルス(Vytalize Health)だ。2014年に創業し、3年で90000%もの収益増を達成し、成長する非公開の成長企業リストInc.5000に選ばれた注目企業だ。1つの医療機関でスタートし、現在2600以上の医療機関と提携して26万人以上のメディケア受給者を支援している。

●Next:医療ベンチャーのバイタライズヘルスが創業3年で急成長できた理由は?

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