[ユーザー事例]

「銀行ではなくITベンチャーだ」成果を優先し独自の金融サービスを創出─セブン銀行のデータ分析戦略

2024年10月11日(金)日川 佳三(IT Leaders編集部)

「マインドはテックスタートアップ。銀行ではなくてITベンチャーだ」──こんな考えの下、セブン銀行が約30人のデータサイエンティストを擁して、データの高度活用を本格化させている。セゾンテクノロジーが2024年10月10日に都内で開催したプライベートイベント「HULFT Technology Days 2024」のユーザー事例セッションに、セブン銀行のAI・データ推進グループ長の中村義幸氏が登壇、同行におけるデータ活用の戦略と道筋を解説した。

写真1:セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部 AI・データ推進グループ グループ長の中村義幸氏
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 セブン銀行は2001年、「セブン-イレブンに銀行ATMを設置してほしい」という顧客の声から誕生した。現在は全都道府県に2万7000台以上のATMを設置しており、1日約270万人の顧客が利用している。

 同行の特徴について、データ活用を推進しているコーポレート・トランスフォーメーション部 AI・データ推進グループ グループ長の中村義幸氏(写真1)は「独自性を追求した金融サービスの提供に注力している」と説明する。

 「マインドはテックスタートアップ。銀行ではなくてITベンチャーだと日頃から言っている」(中村氏)

 例えば、同行のATMから交通系ICやQR決済などの電子マネーにチャージ可能である。提携銀行のスマホアプリでATMのQRコードを読めば、キャッシュカードがなくても現金を引き出せる。イベントがキャンセルになった際にチケット代金の返金を受け取ることもできる。マイナンバーと健康保険証のひもづけも可能である。

ATM設置場所探索や現金需要予測などにデータを活用

 データ活用の例の1つが、電子マネー「nanaco」のポイントデータを銀行における貸付の与信審査に活用する実証実験である。勤務先などのデータに基づく従来型の審査が通らない顧客でも審査が通るようになる。実証実験の結果としては、「従来型の審査と比べて、借りたお金を返さないといった問題の発生率は変わらない」(中村氏)という(図1)。

図1:セブン銀行が取り組んだデータ活用の例(出典:セブン銀行)
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 ATMの適切な設置場所を探索する用途にも、データ活用が役立っている。サードパーティが提供する人流データを活用し、「どの場所にATMを置けば、利用件数が、どれだけ見込めるか」を予測している。また、ATMにおける現金の需要も予測しており、現金を切らさず、なおかつチャージ取引で現金が溢れないようにする。ATM部品の交換タイミングも自動で判断している。

 セブン銀行では、約30人のデータサイエンティストが、こうした新たな試みに取り組んでいる。「まずは作ってみて、実際に現場で試してみて、必要に応じてAI予測モデルを学習し直す。トライアンドエラーを繰り返す」(中村氏)。

 同時に、生成AIの適用にも力を注いでいる。中村氏はこう話す。「生成AIも、まずは使ってみることが大事。自分の思考をAIに合わせていきながら我々自身を変革し、新しい技術に適合させていく。新技術を使いこなせないと、淘汰されてしまう」。

ビジネス成果を優先して分析テーマに取り組む

 図2は、セブン銀行におけるデータ活用の沿革である。最初は、ATMの件数を予測するPoC(概念検証)からスタート。その後、グループ会社から提供を受けた顧客の買い物データを金融に活用するPoCにも取り組んだ。現在はPoCや組織体制の整備を終えて、利益に貢献するフェーズに入っている。

図2:セブン銀行によるデータ活用の沿革(出典:セブン銀行)
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●Next:データ分析プロジェクトの進め方で大切なポイント

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