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AIエージェントはIT部門の“4つの断絶”を解消する好機に─ITR舘野氏が「IT部門自身の変革」を提言

IT Leaders Tech Strategy LIVE AIエージェントの戦力化はIT部門の仕事

2025年12月16日(火)日川 佳三(IT Leaders編集部)

生成AIそしてAIエージェントの能力を業務で生かすのに、IT部門は何をなすべきか。2025年11月12日、インプレス主催の「IT Leaders Tech Strategy LIVE AIエージェントの戦力化はIT部門の仕事─自社特化の生成AI活用基盤を築く」の基調講演に、アイ・ティ・アール(ITR)プリンシパル・アナリストの舘野真人氏が登壇。「AIエージェントの可能性とIT部門に求められる自己変革」と題して、国内企業における生成AIの利用状況から、AIエージェントがもたらす企業ITへの影響、IT部門が取り組むべき変革の方向性までを、調査データを交えて解説した。

 生成AI、そしてAI活用の本命的存在としてAIエージェントが急速な進展を続けている。これまで人間が行っていた定型業務や反復作業を自動化するだけでなく、より高度な判断や意思決定を自律的にサポートする“エージェンティックな業務遂行能力”に多大な期待が寄せられている。

 基調講演に登壇した、アイ・ティ・アール(ITR)プリンシパル・アナリストの舘野真人氏(写真1)は、国内企業における生成AIの利用状況、AIエージェントがもたらす企業ITへの影響、IT部門が取り組むべき変革の方向性を、調査データを交えて解説した。

写真1:アイ・ティ・アール(ITR)プリンシパル・アナリストの舘野真人氏
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 講演の冒頭、舘野氏は、ITRが年次で実施している「IT投資動向調査」の最新速報値を示し、2023年9月時点で14%だった生成AIの導入済み企業の割合が、2025年9月には38%まで大きく伸びていることを示した(図1)。

図1:国内企業における「生成AI」の導入/投資動向(出典:アイ・ティ・アール)
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 舘野氏は特筆すべき点として、導入実績が常に「1年以内の導入予定」の割合を上回っていることを指摘。多くの技術は導入が計画を下回るが、生成AIは企業の投資意欲が旺盛で、当初は2~3年先と考えていた企業も前倒しで導入を進めている状況という。また、「IT部門の予算に閉じず、業務部門の予算や研究開発費として計上するケースが多く、業務部門の影響力が大きい」(舘野氏)こともAI予算の特徴とした。

 一方で、課題も浮き彫りになった。2025年2月の調査では、全社的に生成AIを導入している組織でも、定期的に使っている社員の割合は50%程度にとどまっており、導入するだけでは十分に活用できない実態がある。

AIエージェントの実務活用はまだ初期段階

 企業はどのようなステップを踏んで生成AIやAIエージェントを自社の業務に取り込んでいけばよいのか。舘野氏は、生成AIの導入ステージを3段階に分類して説明した(図2)。

図2:生成AIにおける3つの活用ステージ(出典:アイ・ティ・アール)
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 第1段階はプロンプト活用で、大規模言語モデル(LLM)に質問を入力して回答を得る基本的な使い方である。第2段階はRAG(検索拡張生成)で、LLMに独自データなどを含む社内のナレッジベースを参照させて、自社の業務に即した回答を得る手法だ。調査によると、生成AIを組織的に導入している企業の40%以上がRAGに取り組んでいるという。

 第3段階がAIエージェントである。ITRでは、知覚・計画・行動・記憶の4つを兼ね備えたものをAIエージェントと定義している。業務プロセスの実行に生成AIを活用し、プロンプトへの回答だけでなく、実際に外部ツールを使ってアクションを実行する段階を指している。

 2025年2月の調査では、生成AIを利用している企業のうち、AIエージェントを使っている割合は約2割の19%で、全体で見ると7%前後と1桁の水準にとどまっている(図3)。ここから、「企業におけるAIエージェントの実務活用は初期段階」(舘野氏)と見ている。

図3:国内企業における生成AI/AIエージェントの普及状況(出典:アイ・ティ・アール)
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 AIエージェントに注目が集まる背景として舘野氏は、LLMの高度化やReActフレームワークの一般化、マルチモーダル対応の進展といった技術進化と、日本の労働力不足に伴う生産性向上ニーズ、AIに対する心理的障壁の低下と経営者の投資意欲の高まりを挙げた。

内製化へのシフトとコストモデルの変化が企業ITに影響

 AIエージェントが企業ITに及ぼす影響について、舘野氏は2つの視点で解説した。1つは導入・構築の視点での内製化へのシフト、もう1つは市場環境の視点でのコストモデルの変化(従量課金型への移行)である。

 「AIエージェントは内製化の戦略的な価値を発揮しやすい特性があり、内製化ができないと本当に重要な資産が社内に残らない」と舘野氏。内製化により、AIモデルを継続的に評価・再学習させるノウハウなど、競争力の源泉となる知見が得られる。継続的な性能監視や迅速な対応が求められる点でも内製化に向いているという。

 具体的な取り組みを検討するために、内製化に向けた10項目のチェックリストを示した(図4)。戦略・組織、人材・スキル、データ基盤・技術、運用・ガバナンスの4分類で構成しており、「合致する項目が10項目中3項目以下の場合は内製化は難しい。8項目以上合致すると、戦略立案から開発、運用まで自社で推進できる」(舘野氏)とした。

図4:内製化に向けたチェックリスト(出典:アイ・ティ・アール)
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 人材面では、AI技術とビジネスの両方を理解するブリッジ人材の重要性を指摘。「ビジネスに精通した社内スタッフにAI技術を学んでもらい、両者の接点を見つけてもらうアプローチ」を推奨している。

従量課金への移行でIT支出管理の変革が必要に

 市場環境の変化として舘野氏は、コスト構造の変化を挙げる。オンプレミスからSaaSへの流れに加え、「生成AIでは利用量に応じた従量課金になるため、支出予測が難しくなり、IT支出管理のやり方を変える必要がある」と指摘した。

 特に、AIエージェントのリスク要因として、1つのアクションを実行するために複数回のAPIコールを行うなど、利用が急激に増える可能性を挙げる。「LLMの使い分けやエージェントの設計、業務プロセスの整流化によってコストが変わってくる」(舘野氏)という。

 また、生成AIを導入しない企業でも、世の中のソフトウェアが生成AI対応を進めることで、ユーザー課金型だったSaaSが従量課金に変わる可能性があり、コストへの注視が必要であるとした。

 技術的な課題としては、アクションの成功率・精度の低さ、通信プロトコル(MCP、A2A)の標準化と安全性の確保、オブザーバビリティ(可観測性)とテレメトリーの共通化、チャット画面以外のUXの検討が必要なことを挙げる。

●Next:IT部門に求められる自己変革

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