[市場動向]

伝統と革新の融合による競争力の再構築を─ものづくりの精神が試される時代へ

“人間中心”のスマートファクトリーへ─日本独自のカイゼン文化が導く製造DX

2025年12月17日(水)和久田 典隆(Nagarro マネージングダイレクター 日本事業本部長)

デジタルトランスフォーメーション(DX)は大きな課題であり、経営変革の機会である。日本企業、とりわけ製造業においては、海外に比してその遅れが再三指摘されている。本稿では、DXの課題を乗り越えて推進し、新たな競争力を再構築するためのカギが、日本の伝統的なものづくりの精神と、AIやIoTといった最先端技術の融合にあることを論じる。

 日本の製造業が重要な転換点を迎えている。2025年6月、製造業PMI(購買担当者景気指数)は50.4に上昇し、11カ月続いた縮小局面をようやく脱した。しかし、年初には48.7〜49.4で推移しており、輸出と内需の低迷が続く厳しい現実も見えている。

 こうした中で、デジタル技術が、日本の製造業の伝統的な強み──ものづくりの精神がと融合することができれば、新たな競争優位の構築に向かえると筆者は考えている。以下、国内外の製造業を取り巻く環境と共に論じてみたい。

データが示す日本の自動化リーダーシップ

 ドイツ・フランクフルトに本部を置く国際ロボット連盟(International Federation of Robotics:IFR)が公表した2024年のデータによれば、日本では従業員1万人あたり419台のロボットが稼働しており、これは世界平均の約3倍に相当する。2024年単年では、自動車メーカーだけで約1万3000台の産業用ロボットを導入する見込みで、前年比11%増となる。これは2020年以降で最大の導入規模だ(図1図2)。

図1:ロボット密度の国際比較(出典:国際ロボット連盟〈IFR〉2024年)
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図2:自動車業界のロボット導入推移(出典:国際ロボット連盟〈IFR〉2024年)
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 この数字の背景にあるのが、カイゼン(継続的改善)とリーン生産方式という日本独自の製造哲学である。パイオニアであるトヨタ自動車では、経営陣から生産現場まで、全従業員から年間100万件以上の改善提案が提出され、その90%が実際に実行されている。

Industrie 4.0への日本的アプローチ

 日本企業が推進するDXは、欧米とは異なる特徴を持つ。それは「人間中心」のアプローチだ。スマートファクトリーでは、産業用IoTセンサーが機械の状態をリアルタイムで監視し、AIアルゴリズムが異常を事前に検知する。しかし重要なのは、AIが人間に取って代わるのではなく、現場従業員の判断を支援するツールとして位置づけられている点だ。この「人と機械の調和」こそが、ものづくりの価値を尊重する日本らしさと言える。

 さらに注目すべきは、ボトムアップ型のデジタル化である。カイゼンの精神に触発され、多くの企業が従業員自身に技術ソリューションの共同開発を促している。工場チームが独自のIoTシステムやAIアプリケーションをテストし、現場主導のイノベーションが生まれている。

●Next:伝統の精神「もったいない」が競争戦略になる

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