ERP(統合業務)パッケージの分野をリードしてきた独SAP。現在、同社が提供しているメインストリームの製品を俯瞰すると、「SAP ERP」を筆頭とする業務アプリケーション、「BusinessObjects」を中心とするBIツール、「NetWeaver」のシリーズ名で構成するミドルウェアという3つの分野に分けられる。それぞれは密接に連携し、企業情報システムを形作る。
他の大手ベンダーと比べるとSAPによる買収案件は少ない。しかし、買収の基本方針は明確で、主力製品であるSAP ERPの付加価値をいかに高めるかということに集中している。
業務アプリケーション分野に目を向けると、大企業かつ多様なビジネスに対応するSAP ERPを補完する目的で、中小企業向けや特定業種向けのラインナップを拡充してきた。
中小企業向けでは、TopManage Financial Solutionsを買収し、「Business One」として市場に投入。業種別では、小売業向けパッケージのKhimetricsやPOSソフトメーカーのTriversityを買収。製造業向けとしてはLighthammer Software Developmentを手中に収めた。直近では2009年9月、販売予測ソフトのSAF Simulation, Analysis and Forecastingを買収した。派手さはないが、一定の実績がある企業を買収することで製品ポートフォリオの密度を高めている。
SAPにとって大型買収案件となったのがBIツール大手、仏Business Objects(BO)の買収だ。元々、SAPもERPパッケージの前身R/3の中に経営情報を分析するSAP BWを持っていたが、使い勝手の評判はさほど高くなかった。このため、Pilot SoftwareやOutlookSoftといったBIツールのベンチャー企業を買収し、データ分析/可視化の領域を強化する方針を打ち出した。
そんな矢先、ERP分野のライバルである米Oracleが、EPM(企業業績管理)などデータ分析系ツールに強い米Hyperion Solutionsを約33億ドルで買収することを発表。この刺激もあって、SAPは約68億ドルを投じてBOの獲得に走った。沈着なイメージがあるSAPだが、このときばかりは対抗心をあらわにした印象が強い。
BOがいくつかのBIベンダー(Crystal DecisionsやCartesisなど)を買収してきた経緯もあり、一時はSAPの中にデータ分析系のツールが重複することにもつながった。しかし、現在は取捨選択の方針が定まり、ダッシュボードやレポーティングなどのカテゴリ別に製品ロードマップを公表している。
さらに経営指標管理分野では、環境やコンプライアンスに焦点を当てた買収を展開している。例えば2009年5月に買収したClear Standardsの技術は、CO2の排出量を管理する機能をSaaS形式で提供する「SAP Carbon Impact」の基となっている。
サービス指向アーキテクチャ(SOA)を実現するミドルウェア「NetWeaver」関連の買収もある。具体的には、統合ID管理のMaXwareやビジネスルール管理(BRM)のYasu Technologiesといったベンチャー企業の買収だ。業務アプリケーション群の下層に位置するミドルウェアでセキュリティやビジネスルールを一元的に管理する機能を拡充し、柔軟性の高いシステム基盤を提供するのが目的だ。