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[CIO INSIGHT]

コスト削減と効率追求だけが使命ではない─収益向上の道を切り拓くCIO

The CIO as an Engineer of Revenue By Kay Lewis Redditt and Thomas M. Lodahl

2010年8月30日(月)CIO INSIGHT

IT部門はコスト削減や効率向上を担う部門であり、収益向上とは関係がない─。こうした認識が存在する背景には、IT部門が収益向上に貢献する能力を持っているのだという事実を、経営者や現業部門のリーダー(ビジネスリーダー)がよく理解していないことがある。収益向上を目的としたプロジェクトにIT部門が積極的に関与するためには、CIO(最高情報責任者)自らがビジネスリーダーに語りかけ、プロジェクトの初期段階からかかわりを持つことが必要だ。(編集部)

ITが収益向上に貢献した事例(1)ベータ・リテール(アパレル販売)

300店舗以上を展開するアパレル販売会社である米ベータ・リテール。同社のCIOはある日、自社の全社的な目標のうち、収益向上の優先順位は3番めに位置付けられていることを知った。だが氏は、収益向上に直結するプロジェクトの経験はなく、収益向上を最大の優先度に据える商品販売部門との関わりもなかった。販売店の収益目標に対するIS貢献度評価点は平均値である50を下回る48。IT部門が収益向上に貢献できていることを示すギリギリの数値だった。

氏は商品販売の関連部署のマネジャーと何度となく会議し、重要な問題点を見つけた。在庫切れと過剰在庫がすべての店舗で頻発していたのだ。結果として、せっかく売れ出した商品の在庫が切れて商機を失ってしまっていたり、大量の余剰在庫を安い価格で売りさばかなければならない状況に陥っていた。

理由は、商品担当者が「平均的な店舗」の売り上げ実績をベースに、全店舗共通で在庫を発注していたことにあった。担当者は地域によって売れ筋が違うことは感覚的には認識していたが、それを裏付けるために個々の店舗で何がどの程度売れているかを把握したり、店舗ごとの発注を可能にする機能が、同社の当時のシステムにはなかったのだ。

現状を把握したCIOは、すぐにITによる施策を提案した。ビジネスに関連のあるすべてのデータをデータウェアハウスに集約し、ビジネス遂行に関する様々な分析機能を備えるシステムの構築だ。このシステムが完成すれば、商品担当者は店舗ごとにもっとも適切な意思決定ができる。商品担当者は必ずしもITに詳しくなかったため、ITでこうしたことが可能になることを知らず、今までこうしたシステムをIT部門に要求することがなかったのだ。

提案の趣旨が社内の関係各所に理解されたCIOは早速、データウェアハウス構築に関する具体的な提案を作った。構築にかかる費用は150万ドル(約1億5000万円)を超え、完成に1年はかかると試算が出た。これは商品担当者の通常の感覚ではあり得ないものであるばかりでなく、IT部門にとっても、今までで最大規模のプロジェクトだった。

しかし、戦略と照らし合わせた結果、そのデータウェアハウスの構築は認められ、1年弱で完成に至った。この新しいシステムによって余剰在庫と在庫切れは劇的に減少し、これまで抱えていた問題は解決された。IS貢献度評価点は60にまで向上し、利益率も親会社であるベータ・ホールディングの他の事業部門やアパレル業界の平均値と比較して大幅に改善。業界平均に対し、利益率を4%上積みできるまでになった。

同社のCIOは、社内のエンドユーザーと話し合い、彼らが負っている課題を理解することによって、収益向上を現実化する道を自らの手で作り上げた。その際に氏は、単純に他部門からの要求に応えるという、一般的なプロセスをあえて採らなかった。商品担当者はITについてあまり良く理解していないので、何をどう要求して良いか解らないだろう、と判断したからだ。

このことは多くの企業にあてはまる。もし「収益向上のサポートをしてほしい」という要請がCIOにこなかった場合は、なぜそうなのかを突き止める必要がある。マーケティングや営業、開発担当者など、収益向上をメインテーマとして持っているスタッフと話をしてみよう。彼らの抱えている問題点を洗い出し、ITでそれを解決する方策を一緒に考えることが重要だ。

ITが収益向上に貢献した事例(2)
エアロスペース・ワン(製造業)

収益向上のためのプロジェクトを探すのは常に難しいわけではない。ときには簡単に見つかることもあり、ITによる貢献度も非常に大きなものになりえる。売上高50億ドル(約5000億円)を誇る製造業の米エアロスペース・ワンは、そうした経験を持つ企業の1つだ。

13カ月前に評価した同社のIS貢献度評価点はわずか40.7。これは全体平均である50はおろか、IT部門が収益向上に貢献するギリギリのラインである48も下回るものであった。ビジネスマネジャーの抱えている戦略目標に対して、同社のIT部門はほとんど貢献できていなかった、ということになる。

コグニテック社が同社のCIOやビジネスリーダーに話を聞き、それまで明確にされていなかった問題点があったことが判明した。それは、ビジネスマネジャーがこれまでにIT部門に提出した要求事項の書類の中には一切記載のなかったものだった。

判明したのは、同社の主要顧客である政府への提案書を手作業で作成しており、それが政府からの契約を得るにあたってもっとも大きな阻害要因となっている、ということだった。これまで同社では、提案書作成の際に全国から何人もの担当者を1カ所に集め、それぞれの所管の部分に関連した情報を持ち寄って提案書を作成する、という旧態依然とした方法を採っていた。紙の資料をベースとした作業であるため、提出期限に間に合わなかったり、間に合っても不完全な提案書になる事態が多発。結果的に入札に失敗するといった事態が常態化していた。

こうした課題認識を全社で共有した同社は、様々な事業部門のビジネスマネジャーが資金を提供し、ITを使った新たな提案書作成システムの構築をスタートした。開発は半年で完了。このシステムにより、今まで6カ月もかかっていた政府調達に必要になる複雑な提案書の作成を、たった6週間で可能にしたのだ。すでに20億ドル(約2000億円)の契約を1件受注できたという。

同社のIS貢献度評価点は当初の40.7から53.3に向上し、ビジネスマネジャーの目標達成にITが大きく貢献するようになったことが明らかになった。

具体的な数字を経営陣に示し収益向上の意義を説く

CIOは、IT部門にとっての企業内顧客である事業部門の中で起きつつある収益改善を求める動きを見逃さないことが重要だ。だがこうしたプロジェクトに注力するためには、企業内での優先順位の壁を避けては通れない。プロジェクトを選択する際にROI(投資対効果)を重視する企業では、「コスト削減に関するプロジェクトを優先すべきだ」という偏向した見方に取りつかれているケースが多い。コスト削減という概念は、ビジネスの世界ではもっとも理解しやすいからである。

収益向上という概念を経営陣や関係各所に説明するのは難しい。だがプロジェクトが完成したときに期待できる収益向上額を見積もり、実際に獲得できる金額を提示して説得することは可能だ。それ以降のコスト・ベネフィット分析は、コスト削減のプロジェクトと同じものになる。

これまで紹介してきた、自ら収益向上を実現したいというCIOの取り組みからは次のような教訓を得られる。

  1. 収益向上のためのプロジェクトは、コスト削減や効率向上のプロジェクトと同様、利益率の向上に貢献できる
  2. 収益向上のためのプロジェクトにかかわっているビジネスパーソンは、IT部門にサポートを依頼しないケースが多い。彼ら彼女らはITで何ができるかを知らないことが少なくないからである。CIO自らが収益向上のためのプロジェクトを発見し、プロジェクトの責任を負っているビジネスマネジャーとITで何ができるかを話し合うことが大切になる
  3. IT施策に関する要求は現業部門からの一方的なものではなく、IT部門と現業部門のマネジャーの直接の話し合いを通じて実施するべき
  4. 標準的なROIの計算では、収益向上よりもコスト削減を重要視する傾向がある。だが、その理由はほとんどの場合、コスト削減は誰でも理解できる概念だから、というだけのものである
  5. 現業部門のビジネスを理解するIT部門の価値は大きい。IT部門が現業部門と良好な関係を築こうと思えば、昔は現業部門からの要求通りに動いてさえいれば良かった。今となってはこれでは不十分だ
ケイ・ルイス・レディット
ITコンサルティング企業の米コグニテック・サービシズの共同創立者兼CEO(最高経営責任者)。労働経済分野のリサーチをバックグラウンドに持ち、現在クレジットカード会社の米アメリカン・エクスプレスでMIS(経営情報システム)のディレクター兼部門CFO(最高財務責任者)を務める。出版社の米マクミラン・パブリッシングの部門COO(最高執行責任者)でもある
トーマス・M・ロダール
米コグニテック・サービシズの共同創立者兼代表。ATMなどの銀行システムを中心としたシステム開発業の米ディーボールド・グループにおけるオフィスオートメーションの責任者や、マサチューセッツ工科大学(MIT)とコーネル大学の教授を歴任した。ここ10年間は季刊誌である「Administrative Science Quarterly」の編集長を務める

本記事は米国の有力IT関連メディア「CIO Insight」 (提供はZiff Davis Enterprise)の記事を翻訳したものです。
©2010 Ziff Davis Enterprise, Inc.

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