CIO座談会:ITトレンドの本質とユーザーの針路を見極める[前編]
2010年11月4日(木)川上 潤司(IT Leaders編集部)
増大する先行きの不透明性やITベンダーとユーザーとの関係の希薄さ、そんな中での一層のコスト低減要求とITへのニーズの増大─。厳しさを増す一方の企業情報システムを取り巻く環境に、どう対処すればいいのか。論客として知られる4人のCIOに、ユーザーとベンダー双方が進むべき道を議論してもらった。前編では、ユーザー企業の課題とITベンダーへの期待を中心にお届けする。 聞き手:本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉
カシオ計算機 執行役員
矢澤 篤志 氏
1981年、カシオ計算機に入社。海外営業や物流企画の部門を経て、1997年に業務開発部(情報システム部門)に配属。2001年に部門長、2006年から現職。ERPやSCMなどのグローバルプロジェクト、IT部門と子会社の構造改革、IT基盤の構造化(仮想統合、SOA)などを牽引している
大成ロテック 常勤監査役
木内 里美 氏
1969年、大成建設に入社。土木設計部門で港湾などの設計に携わった後、2001年に情報企画部長に就任。以来、大成建設の情報化を率いてきた。講演や行政機関の委員を多数こなすなど、CIOとして情報発信・啓蒙活動に取り組む。2008年6月から現職
大和総研 専務執行役員
鈴木 孝一 氏
1979年、大和証券に入社。1996年に大和総研の証券システム開発部長に就任した後、同社の新証券システム開発部長や大和証券のシステム企画部長など、情報システムの要職を歴任してきた。2008年に大和証券の常務取締役に就任。2010年4月から現職
ヤマトホールディングス 執行役員
小佐野 豪績 氏
1988年4月、ヤマト運輸に入社。宅配サービスの現場業務やシステム業務に従事し、2003年6月に情報システム課長に就任した。その後、関連会社であるヤマトリースやボックスチャーターの社長を歴任。2010年4月から現職
─ まず議論の俎上に上げたいのは、ここ2、3年、ITに関する話題の中心に位置するクラウドコンピューティングです。情報システムのあり方やITベンダーの役割を大きく変える可能性が指摘される一方で、なかなか普及が本格化しない現実もあります。これは一体、どういうことなのか…。
鈴木:それについては面白い話があります。2010年7月にロンドンとドイツの金融企業を視察してきたのですが、結論を言うとクラウドコンピューティングに、あまり熱心ではないんです。彼らが今、一生懸命に取り組んでいるのはコンソリデーション、つまり整理と統合です。それもシステムだけでなく、業務のやり方からコード名まで徹底して標準化を進めている。
クラウドに目を向ける前に業務とITの標準化を
─ クラウド化の前に、やるべきことがあると?
鈴木:そう。彼らは「クラウドなんか気にしていないよ」と言ってのけます。「それより日本企業は、俺たちのように標準化しているのか?」と自慢するんですよ。かつて視察した米国の金融企業も同じで、標準化という地道な作業に多大なコストをかけている。この姿勢は見習うべきでしょう。標準化していれば、結果としてクラウドにシステムを乗せやすくなりますし、反対に標準化していないと、M&Aが特に盛んな欧米では企業価値が低いと見なされかねないんですね。
矢澤:全面的に賛成です。鈴木さんが指摘されたようなステップを踏まずにクラウドへ移行してもメリットはありません。システムがバラバラになるだけです。当社は現在、共通化したアプリケーションとインフラのグループ展開を図っていますが、その前提として2001年からグローバルレベルで業務とITの標準化・統合化を続けてきました。
─ いきなり模範解答のような話になっていますが、小佐野さん反論をお願いします(笑)。
小佐野:反論なんてとんでもない。むしろ私の思いをお二人が代弁してくださったと(笑)。今だから打ち明けますが、当社はホールディングス体制にしてから、グループ各社でシステムがバラバラになった時期がありました。現在はヤマトグループとしてプライベートクラウドを実現する新しいスキームを整えていますが、これはシステム基盤を標準化し、統合化した結果です。
IT進化の方向性を見ればクラウド化の流れは必然
木内:表面的な動きばかりを見て「クラウド、クラウド」と大騒ぎするから背景や本質が分かりにくくなっているわけです。クラウドといっても、要するにソーシングの1形態でしょう。自社特有の付加価値を生み出す業務やシステムならプライベートで、生み出さないならパブリックのリソースを使えばいい。それにはグループ会社や部門に勝手なことをさせず、皆さんが取り組まれているように標準化・統合化を含めたITガバナンスを利かせることが先決なんです。もちろん、クラウドを否定しているわけではなくて、仮想化をはじめとする技術の進歩や標準化・統合化の流れを考えれば、最近のクラウドへの流れは極めて自然ですよ。
─ クラウドをバズワードと見る向きがありますが、情報システムの方向性としては必然?
矢澤:確かにベンダーのマーケティング・メッセージという側面はあるでしょう。でも私の場合、業務とITを標準化・統合化する流れの中で、クラウドの考え方をすんなりと受け入れられました。ユーザーとしては、自社のIT戦略を描き、実現する際にクラウドという言葉を上手く使えばいい。
小佐野:まったくその通りです。先ほどプライベートクラウドという表現をしましたが、「グループ全体のITガバナンスを確立する」という当社のIT戦略にクラウドという言葉がピタリとハマったので、私も戦略実現に向けて全社を1つにまとめる旗印として、都合よく用いているところです。
●Next:ユーザーとベンダー、理想のパートナーシップは?
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