企業ITに携わるプロフェッショナル達に、自分の書棚から特に印象に残っている3冊を選んでもらう「私の本棚」。今回は、MTI 社長の安永 豊氏に聞いた。
「モノはこび」の技術開発に携わる身として、イノベーションや技術革新という言葉には敏感です。「イノベーションの作法」を書店で見て、すぐ手にとりました。表紙を見てびっくり。共著者の勝見明君は、中学・高校の同級生なんですよ。ジャーナリストになったことは知っていましたが、こんな真面目な本を書いているとは(笑)。
冗談はさておき、本書はマツダのロードスターやソニーのFelicaといった成功事例を基に、どうすれば技術革新を起こせるかを説いています。イノベーターは、異なる2つの資質を併せ持っている。著者らはそれを、「理想主義的プラグマティズム」や「知的体育会系」といった言葉で表現します。技術革新というと、ブレストとか場作りとか、手法に目が行きがちです。でも、本当に必要なのは人間学。本書を読んで、そう気づかされました。
「二酸化炭素温暖化説の崩壊」は、前任の社長がふらっとオフィスに現れて置いていったものです。書名の通り、「CO2が地球温暖化の原因である」という通説に異議を唱えています。CO2犯人説は、都合のよいデータばかり集めた我田引水のたまもの。それを、いかにも真実であるように喧伝している。著者はそう指摘します。著者に対する評価は様々なようですが、3・11以前に原発の問題点を指摘していた点でも、値打ちのある本だと思います。
環境関連でもう1冊。「人類が消えた世界」は、もし人類がいなくなったら世界はどうなるのかを詳細にシミュレーションしています。人類消滅から2日後、地下水汲み上げ施設が停止し、ニューヨークの地下鉄は水没する。3年後にビルが崩れはじめ、20年たつころに道路が陥没する。その一方で、原子炉から漏れ出したプルトニウムが1/1000に薄まるのは25万年後。プラスチックは、どんなに小さく砕こうが地中に埋めようが、永遠に分解されないそうです。人類が消えても、地球は存在し続ける。その一方で、我々が地球に与えているダメージは大きい。人間はそう自覚し、もっと謙虚になるべきです。
この4月、あるセミナーで講演しました。テーマは、「クラウド時代におけるIT部門の役割を考える」。そのネタ探しをしているときに見つけたのが、辻信一氏の「『ゆっくり』でいいんだよ」です。IT化が進むにつれて、どんどん忙しくなっている気がします。
日々、メールを読んで返信するだけでかなりの時間をとられる。それでいいのか。何のための忙しさか。同書は、そういう問題意識にぴったり来ました。文中、「大地を守るなどと思わず、大地を楽しみなさい」という言葉があります。すべてコントロールしようとする人間の傲慢さを突いた名言ですよね。
同書を読んだからというわけではないですが、私自身、大地を楽しんでいますよ。2年前から、親類に農地の一部を借りて野菜作りにいそしんでいます。義母が畑仕事をやりたいと言うので、「耕すのは大変だろう」と助っ人を買って出たのがきっかけ。といっても、いざクワを握ってみたら、義母のほうがよほど様になっていたんですけどね(笑)。
以来、大根やサツマイモなんかを作っています。先日収穫したのはソラマメ。これはよかったですね。ソラマメって、店で買うと案外高いでしょ。サヤをむくと量ががくっと減るし(笑)。その点、自分で栽培すると、思う存分食べられます。今、畑にはカボチャがごろごろしています。
二酸化炭素温暖化説の崩壊
広瀬 隆著
ISBN:978-4087205527
集英社
735円
人類が消えた世界
アラン・ワイズマン著
ISBN:978-4152089182
早川書房
2100円
- 安永 豊 氏
- MTI 社長
- 1975年、日本郵船に入社。北米内陸輸送網整備、北米及びアジア域内システム開発担当などを歴任し、2002年に経営委員・CIOに就任。基幹業務システム再構築とグローバル導入、本社会計システム再構築などを手がける。2007年、日本郵船グループの技術開発と人材育成を担当する子会社であるMTIの社長に就任、現在に至る。
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