[インタビュー]
2030年、AIなしの業務はゼロに─AI Transformationへの“Golden Path”を探る
2025年12月2日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)
生成AIを「個人で業務利用している」割合は日本企業が米独の企業を上回る。一方で生成AIが「部署の業務プロセスに組み込まれている」割合は、米独企業が4割弱なのに対し日本企業は1割程度と顕著な開きがある──。こんな調査結果を「間違いだらけの日本のDX─『DX動向2025』が映す米独との"違い"と"差"」で紹介した。このままでは、最近よく聴く「AIトランスフォーメーション」はおぼつかない。どう考え、アプローチすればよいのかを、米ガートナーの特任アナリストに聞いた。
「AIトランスフォーメーション」が意味するところ
翻訳や提案書作成などさまざまな業務でAIを活用するのは、すでに当たり前に行われている。今求められているのはそうではなく、企業活動のさまざまな領域に「AIを組み込む」ことだ。業務プロセスやビジネスモデル、組織構造そのものを「AIを前提としたもの」へと変革していく──これこそが「AIトランスフォーメーション」と呼ばれる取り組みである。
しかし、10年近く喧伝され続けているデジタルトランスフォーメーション(DX)においてさえ、多くの組織はDigitalization(デジタル化)の段階にとどまり、真のトランスフォーメーションに取り組めている企業は少数とされる。AIの活用においても、目の前にある業務効率化やコスト削減ならまだしも、業務プロセスやビジネスモデルを変革するのは至難の業だろう。では、いったいどのようにAIトランスフォーメーションに取り組めばよいのか。
幸い、この疑問について(Gartner)の専門家に聞く機会を得た。ディスティングイッシュト バイスプレジデントアナリストを務めるアンディ・ラウゼル・ジョーンズ(Andy Rowsell-Jones)氏である(写真1)。
写真1:米ガートナー ディスティングイッシュト バイスプレジデントアナリストのアンディ・ラウゼル・ジョーンズ氏。「ディスティングイッシュト(Distinguished)」は特別功労、名誉、特任といった意味の肩書きジョーンズ氏は、ガートナージャパンが2025年10月に都内で開催した「Gartner IT Symposium/Xpo 2025」において、同社ディスティングイッシュト バイスプレジデント アドバイザリの松本良之氏と共に基調講演に登壇。「Walking the Golden Path to Value(AIがもたらす価値への黄金の道を歩む)」と題し、企業がAIに取り組む際の"Golden Path"について語っている。
──生成AIが今もなお進化を続けています。さらに、業務システム/アプリケーションの開発を支援するAIエージェントをさまざまなベンダーが提案するなど、ユーザー企業からするとキャッチアップするだけでも大変です。現状をどのように見ていますか?
私は1年前の基調講演で「2つの競争」の話をしました。1つはAIベンダー同士の開発や投資の競争、もう1つはユーザー企業によるAIの導入競争です。これらの競争はいっそう加熱し、特にベンダーがAIに投じる投資は大変な巨額になっています。背景には、どんな問題でもAIが解決する/解決してくれるという考えの広がりがあり、今、AIはまさに「過度な期待のピーク期」にあります。
ソフトバンクグループなどが進める5000億ドルのAI投資計画「Stargate Project」や、OpenAIとオラクルの3000億ドルのインフラ契約、NVIDIAの5兆ドル近い時価総額などですね。2025年10月末に、OpenAIの企業価値が7000億ドルに達しました。こうした状況で出てくるのが、過度な期待によりAIバブルが生じているのでは? という疑問で、そういう側面はあると思います。
PoC成功率は5分の1、AIブームの背後にある「恐れ」
一方で、さまざまなPoCが実施されているものの、大半は期待に見合う結果を出せていないという論調、失敗を取り上げた否定的な記事や論文も出始めています。AI以前のIT/デジタル技術、例えばERPやSaaSなどの導入であれば、自社の製品を拡販できる、競合からシェアを奪える、早期に投資を回収できるといった価値を訴求できました。デジタルを生かして登場した金融サービスやタクシー配車、音楽・映像配信などは、産業のあり方を変えました。
しかし、AIはどうでしょう。さまざまな取り組みがある中で、ROIを達成したのは5分の1ほど。それも時間の節約ができた程度です。期待は非常に大きいですが、産業のあり方に影響するような、そんなAIのユースケースが登場するには時期尚早と言えます。ベンダー同士の競争であれ、一般企業のAI活用であれ、乗り遅れてはいけないという恐れが根底にあって、それに突き動かされている。そういう恐れが、バブルにも思えるAIへの投資やAIブームを生んでいるわけです。
●Next:AIブームの誇大宣伝と人々の躊躇の間に“黄金の道”がある
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