ハードウェアの保守サービス料金やソフトウェアの保守サポート料金は、IT専門誌が時々、特集を組むことから分かるように、提供するベンダーにとってもユーザーにとっても関心の高いテーマである。本誌も2010年1月号で「ソフトウェア保守サポート戦略的活用元年」と題した特集を組んでいた。
ITベンダーにとっては、保守サポートは安定的な収入を図る上で極めて優れたモデルであり、その料金は収益の源泉の1つである。初期契約の価格を大幅に値引きしてでも新規導入を促す一方で、定価に一定料率を掛けて算出する保守料金によって、回収する収益モデルが一般化している。このモデルをベンダーが放棄することはないだろう。
ユーザーにとっても有用な保守サポートはある。例えば法制度などの改正への対応は実に有り難い。自社開発のソフトウェアでは、毎年のようにある制度改正の際にプログラム修正が必要になり、その負担は大きいからだ。技術サポートも必要である。
ロックインではなくパートナーに
一方、新規バージョンへの無償アップグレードサービスになると有り難いともいえるが、そうでない面もある。アップグレードには相当の費用とリスクが伴うからだ。より大きな不満の1つは選択肢がないこと。例えば年間保守契約を結ばずにスポット保守を選択しようにも、高額に設定されていることが多い。結局、年間保守契約に誘導される。途中で解約した後に必要になって復活させると、解約期間の料金を支払う契約条件になっていたりする。提供する側に都合のよい仕組みなのである。
こうしたユーザー側の関心=不満の中心は、料金の不透明性とコスト対サービスに納得感がないことだろう。一般に定価の15%〜20%程度に設定されるサポート料金の根拠は曖昧だし、そこに不具合修正のための料金が含まれるのは不合理を感じざるを得ない。製品を使っている間は、ベンダーの一方的な契約コントロールの下に置かれるために、ユーザーの不満が尽きない。
筆者が経験したこういう事例がある。経営基盤になる新規システムを構築する際に、あるデータベース・ベンダーが傲慢とも言える価格体系を提示してきた。筆者の判断で新規システムでは別のベンダーのデータベースを標準とするようにした。社内では使ったことのないものだったので一時的にシステム部門内の混乱はあった。しかし社内の技術者は間もなく使いこなして、総コストを下げることに寄与した。
思わぬ落し穴もあった。安定稼働をしていた既存システムのバージョンアップを強いられたのだ。それをしなければサポートを打ち切るという。やむなくバージョンアップをしたら、システム障害が発生した。余計な機能の付加によって生じたベンダー側のミスであることが判明するまでに時間を要し、さらに次のバージョンアップまで騙し騙し使うことになったのである。これに対する損害を、ベンダーは支払おうとしなかった。
情報技術の分野では程度の差はあれ、特定のベンダー製品を使う限りロックインは避けられない。メインフレーム時代は完全ロックインと言ってもいい。しかしその時代は、今よりはるかにパートナーシップが出来ていた。相互の役割と責任が明確だったし、補完もし合った。オープン時代でもクラウド時代でも、そういう関係を構築しなければならない。そのために何が必要だろうか?
会員登録(無料)が必要です
- 最近の選挙から民主主義とデジタル社会を考察する(2024/12/04)
- DXを推進するなら「情報システム部門」を根底から見直せ!(2024/10/30)
- 「建設DX」の実態と、厳しさを増す持続可能性(2024/10/02)
- 過剰なハラスメント意識が招く日本の萎縮(2024/08/27)
- 日本の死生観の変化がもたらす将来(2024/08/07)