[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.2「批評家たるな、本質論者たれ」

2012年12月3日(月)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

人の意見にダメ出しはしても、代替案はと問われると答えに窮する−−。ありがちな光景だが、ビジネスを推進していく上では姿勢を改める必要がある。批評家にとどまらず、本質論者であることの意義を考える。

アナリストは、技術や市場を評価することが仕事の一端にある。そのため、評価することに長けた、いわば“評論家”としての顔が色濃く出てくることが多々ある。この能力は、アドバイザリー行為の主従関係が存在する局面、例えば講演やプレゼンテーション、あるいはコンサルティングの現場では意味がある。いや、必須のスキルといっても良いだろう。

Yesとしか言えないコンサルタントは存在価値が薄い。どんな議論でも、とりあえずはNoと言え、という風潮もなくはない。これは、あら探しをしろという意味ではない。科学的、数学的な論拠を構成する際も、多面的に批評する姿勢を忘れず、ダメ出しを繰り返すことで、完成度を高めていこうという意識が根底にある。

しかし、事業を推進したり会議で意思決定したりする場面では、「批評しかしない人」は不利益極まりない。否定的な空気を作り、チームの方向性をドライブすることができないからだ。重要な会議で「代替案なき批評」に終始するメンバーに振り回されると、大きくマイナスに作用する。アナリストとて例外ではない。概して分析に長けており、発するメッセージは客観的な正論であることが多いが、そのスキルを履き違えると百害あって一利無しだ。

有意義な会議とは、結論を出すという目標を共有し、それに向かってポジティブな意見を出すことこそが貢献する。ポジティブとは詰まるところ、他人を批評するだけでなく自らが発案するということだ。この辺りの事情が分かっていないと、会議でノイズを発するだけの迷惑な存在に成り下がる。

So What?と問う習慣を身に付ける

筆者が社内外で会議をファシリテーションする場合、意見を述べるからには「根拠と代替案を出すこと」を条件とし、批判や批評に留まることを牽制することにしている。ほとんどの場合、否定的意見を持ち出す人もその根拠までは言える。しかし、代替案が出てこないのだ。

そうした際は、「貴方のその意見はよく分かりましたが、それで結局のところどうしたらいいとお考えですか?」と逆に質問をする。最初の段階で、この「So What?」を何度か繰り返すことで、参加者は単なる批評家としての意見が受け容れられない会議であることを認識するようになる。

代替案はないがすぐに賛成はできない、というシーンも現実にはあるものだ。その場合は、「自分の理解もまだ十分ではないが」「よって、どうすべきかまでは考えが及んでいないが」と枕詞を付けて発言するだけでも、場の雰囲気は良くなる。一般に、批評するのは楽だが、起案するのは難しい。例えば、あるアーティストの曲を聞いて良いか悪いかは分かるが、より良くするためのアレンジの方法を思いつくのには、高度なスキルを要する。代替案なき批判をする上で一言添えるのは、発案者に対する礼儀と言っても良いだろう。

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