[シリコンバレー最前線]

データセンター業界に変革をもたらすFacebook―シリコンバレー最前線

2013年4月12日(金)山谷 正己(米Just Skill 社長)

オープン化の波は、ハードウェアにも押し寄せている。2011年4月、Facebookが自社のデータセンター設備をつまびらかにしたのを端緒に、ベストプラクティスに基づきハードウェアの標準仕様を策定しようという機運が高まった。すでに、エンジニアが草の根レベルで議論を重ねた成果が現れはじめた。

 ソフトウェアの分野では、オブジェクト指向やSOAの普及によって、異なる製品間の移植性や相互運用性が実現されてきた。さらにWebAPIが公開されるようになり、データ交換も一段と進化しつつある。

 ところが、ハードウェアの分野は旧態依然としたままだ。命令セットや通信プロトコルなどの要素技術に関しては業界標準があるものの、完成品のレベルでの互換性はまだ確保されておらず、各社独自の仕様を固持しているのが実情である。例えば、サーバーの同一マザーボード上にIntelチップとAMDチップを混在させることはできない。電源ユニットのサイズもまちまちである。ディスクドライブを収容するシャーシの形状も、メーカーによって異なる。

 ハードウェアの集積であるデータセンターも然り。近年のクラウドブームに乗り、データセンターやクラウドサービス事業者はデータセンターの新増築に巨額を投資している(表1)が、その仕様は事業者ごとにばらばら。各社各様のラックを並べ、サーバーを装填して構成している。設計や運用の詳細は秘密に閉ざされている。そうした現状にくさびを打ち込んだのがFacebookである。

運用開始 ベンダー 所在地 データセンターの床面積 建設費
2007 Google アイオワ州 1万350m² 9億ドル
Apple ノースカロライナ州 45万m² 10億ドル
2009 Microsoft アイルランド 2万7000m² 5億ドル
2011 Facebook オレゴン州 2万9970m² 2億1000万ドル
建設中 Apple オレゴン州 3万1400m² 6800万ドル
表1 主要ベンダーが近年建築したデータセンターの概要

 同社は米国に3つ、スウェーデンに1つのデータセンターを運用している。それらの総床面積は16万8000平方メートル。総消費電力は90メガワットに上る。10億人に上るユーザーの書き込みや画像を預かる同社にとって、データセンターは事業の根幹である一方で、最大のコスト要因でもある。

 そこで、効率化を徹底的に追求した。その結晶が、2億1000万ドルを投じて建設し、2011年4月に運用を開始したオレゴン州北部のデータセンターである(写真1)。

 同センターのPower Usage Effectiveness(PUE:データセンターの電力効率の指数。その値が1に近いほど効率がよい)は、なんと1.08。既存データセンターのPUEの値は通常1.5以上、新しいものでも1.2程度であることを考えると、同データセンターの革新性が分かる。ちなみに、Googleも世界中にデータセンターを設置しているが、それらのPUEは平均1.12である。

写真1 Facebookがオレゴン州に建設した最新データセンターの外観(左)と内部(右)
写真1 Facebookがオレゴン州に建設した最新データセンターの外観(左)と内部(右)

 Facebookがすごいのはここからだ。同社のマーク・ザッカーバーグCEOは、「データセンターのベストプラクティスを業界全体で共有するべき」として、最新データセンタの仕様や図面などを公開。Open Web Foundation(Web関連の技術仕様を開発・策定するNPO)のライセンス下、誰でも無償で利用できるようにした。仕様に従ってデータセンターを構築するのも、派生仕様を作るのも自由である。

 Facebookによる問題提起が契機となって、2011年4月に「Open Compute Project(OCP)」が誕生した。OCPは、スケーラブルなコンピューティング環境を構築する際に最も効率のよいハードウェア設計を提供することを目指すイニシアティブである。すでに、サーバーやストレージ、ラック、データセンター設計などの仕様を策定済みだ(表2)。新しい波に乗り遅れまいと、ハードウェアメーカーやクラウドデータセンター関連事業者が同プロジェクトに続々と加盟している。

サーバー 消費電力を最適化したマザーボード
System on a Chip(SoC):1つの小型カード上にMPU、DRAM、ストレージデバイスを実装できるマイクロサーバーと、それを複数装填できる基盤ボード
単一ボルトの電源装置:出力電力は直流12.5V、入力は交流277VAおよび直流48V
ストレージ Cold Storage:アーカイブ用の低価格の磁気ストレージ。アクセスしていないときは回転を停止
Open Vault:2Uのシャーシに30個のドライブを装填すること。ドライブの交換が容易であること
オープンラック ラックの横幅は従来通りの24インチであるが、21インチ幅のシャーシを装填する
光コネクタ:デバイス間、ラック間の電子ユニットの接続に光ケーブルのコネクタを使う(シリコンフォトニクス)
データセンター 配電装置を277Vにして変圧器を削減するなど、エネルギー効率を向上させる
その他 バーチャルIO、コンプライアンスと相互運用性、ハードウェアマネジメントなど
表2 OCPがこれまでに策定したハードウェア仕様

 OCPは発足以来、「Open Compute Summit」と称するカンファレンスを定期的に実施している。2013年1月には、その第4回をシリコンバレーのサンタクララコンベンションセンターにおいて開催した。展示会場にはOCP仕様に準拠した各種製品がずらり。エンジニアが共同作業するハッカソン(Hackathon)のセッションでは、各種仕様について熱心に議論する参加者たちの姿が見られた。

 初日の夜は、コンピュータ歴史博物館の大会場でのカクテルパーティが深夜まで続いた。2日間にわたるカンファレンス期間中、会場内は「自分たちの手でハードウェアのオープン化を推進しよう」という熱気に包まれていた(写真2)。こうしたOCPの盛り上がりは、1990年代末のOSS勃興期を彷彿とさせる。

写真2 Open Compte Summitの会場風景。左はOCPのWebサイト
写真2 Open Compte Summitの会場風景。左はOCPのWebサイト

 日本においても2013年1月17日、OCPに賛同する企業が集ってオープンコンピュート・プロジェクト・ジャパン(OCPJ)を設立した。会員企業には、IDCフロンティアやNTTコミュニケーションズ、さくらインターネットといったデータセンター事業者が名を連ねる。ハードウェアのオープン化と省エネ促進に向けた今後の活躍に期待したい。

山谷 正己
米国Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授/IT Leaders米国特派員
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