経営環境が激変していると言われるが、その背景に何があるのか。先進工業国の日米が経験した2度の経済繁栄の質的変化を見ながら、ビジネスリーダーが持つべき視点を整理する。(協同組合ワイズ総研 代表理事 岩佐 豊 氏)
「企業を取り巻く環境が大きく変化している」とよく言われる。確かに、顧客の嗜好の移り変わりや、技術の進化、さらに規制緩和などの影響を受けて、経営の舵取りがとても難しい時代である。
ここで、ともすると目の前の課題ばかりに意識が向きがちなのだが、もっと大局的な視点で、先進工業国の経済環境が今、どのような方向に進もうとしているかに思いを巡らせることも重要と考える。その大きな流れを認識することで、絞り込むべき戦略テーマが見えやすくなるからだ。本稿では、日本と米国それぞれの経済がこれまで歩んできた道のりを振り返りながら、ビジネスリーダーが念頭においておくべき時代背景を整理する。
日米ともに2度の経済的繁栄を経験する
日本はこれまで大きく言って2度の経済的繁栄を経験している。1度めは1970~1989年あたりのざっと20年間。その後に「失われた10年」と言われる低迷を味わい、2度めとして2000年以降の繁栄期に入り今日に至っている。ただし、それが持続するのは2015年あたりまでという見方もある。
米国経済も日本に先駆けて似通った道を歩んだ。最初の繁栄期は1950~1965年あたりまで、そして2度めが1983~2003年といったところだろうか。両国がたどった軌跡、つまりは経済的繁栄の構造は相似している。それは先進工業国が“老大国”に向かう、ある意味で普遍的な流れとも捉えることができるだろう。
図1:日米の先進工業国がこれまでに経験した経済的繁栄期
一般的に、先進工業国に入る前段階は商業資本の時代である。そこでの展開は概ねワンパターン。低賃金、低コストで輸出商品をやるというものだ。まるでコロンブス時代の船 --投資家を集めて船を出し、2~3年後に積んで帰ってきたコショーを売って山分けする-- のように投資サイドから見れば、回収の早い資本である。今の中国は典型的な商業資本の時代である。
このフェーズで国の資本がため込まれ、次に1回めの繁栄を迎える。ここでは工業資本が一気に伸びる時代だ。日本では知っての通り、エレクトロニクスと自動車が牽引役となった。「品質」という強みをもってして世界の市場を席巻し、国は潤った。
まさに右肩上がり。所得の伸びは経済成長率を上回り、中流階級と称される人々の層がどんどんと厚みを増していった。企業にとってみれば、何か製品を作って市場投入する、それが他社と異なる特段の工夫がないアプローチでも経営が十分に成り立つ幸せな時代でもあった。
グローバルに展開している機関投資家というものは、常に“国の経済の基本的な温度”というものを見極めていて、ホットな時に巨額なお金を動かす。先の日本の1回めの繁栄も、好況感が一巡しバブル崩壊へと向かっていく中で冷え込み、欧米巨額投資運用資金は一気に引き上げられ終焉を迎えることとなった。
不況を耐え忍んだ後、米国にも日本にも年次は異なるにせよ第2の繁栄期が訪れた。金融資本が大きく伸びる時代への突入である。経験則からわかっている数少ないこととして、先進工業国では、工業資本と金融資本それぞれの集中で2つの“我が世”を謳歌できるものの、残念ながら第3が期待できない“刺激なき老大国”となっていくというシナリオがある。異論があるかもしれないが、日本はまだギリギリ温度が高い第2繁栄期の終盤といったところだろうか。
待ちわびた景気回復。かつての繁栄の再来を期待する声は高まるが、実態は最初のそれとは構造が異なるものであった。第2の繁栄期においては、構造的に所得の伸びが経済成長率を上回ることなく、よくて物価上昇率なみという域を出ないのだ。巷間で「景気回復といいながら、なかなか実感できる材料がない」と言わるのも、このことが1つには影響している。
平均所得の伸び悩みにおいて、もう1つ念頭においておくべきことがある。所得層の人口分布は、ざっくりいうと富裕層を頂点にしたピラミッド状の形となる。第1繁栄期で中流階級がぐっと厚みを増したことは先に触れた。第2の局面で、経済は繁栄するのだが、どの層も平均的に所得が上向くかと思いきや、実はそうはならなかった。誤解を恐れずに言えば、中間層が下に移り、一部の富裕層と二極分化するという傾向が強まったのだ。景気回復=全員の生活が平均的に上向くという観念が崩れたのである。
この二極分化は企業の側にも当てはまる。分かりやすく表現すれば、かつての第1繁栄期は10社の中で7社が業績を大きく伸ばせた。それが第2繁栄期では、10社に7社が過去最高利益を更新できず、少数派の3社の好業績に全体が支えられるという構図になっているのである。
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