金融業界のフィンテック(FinTech)の動向にも象徴されるように、スタートアップ企業による先進ビジネスモデルの提供や大手企業との戦略的提携など、よりオープンなテクノロジーを基盤とした業界地図の変動が起こりつつある。そこで不可欠となるのがAPIエコノミーおよびそれを支えるPaaSのパワーだ。エンタープライズITの分野を牽引してきたIBMは、その動きをいち早くとらえ、「Bluemix」を基軸に、アプリケーション開発や企業間の協業のあり方を抜本的に変える環境を提供している。2015年10月14日に開催された「PaaSコンファレンス2015」(主催:インプレス)において、「APIエコノミーとPaaSで実現する破壊的イノベーション」と題した日本IBMのセッションの概要を紹介する。
多様なサービスをAPI経由で提供する金融機関が拡大
「IaaSはコモディティ化しつつあり、差異化要因にはなりません。初期費用不要でなおかつ従量課金制で利用できる、柔軟な拡張性を持ち、可用性も担保されているといった特徴は、もはや当然のことになりました。では、今後どんな要素が注目されるかというと、それはAPIエコノミーに他なりません」と、ラスムス氏はあらためてクラウド業界のトレンドに言及した。
APIエコノミーは急成長する新世代のカスタマーチャネルそのものであり、外部パートナーや顧客との“接し方”を大きく変えていく可能性がある。企業のデジタルアセットをAPI経由で公開することで新しいビジネスをドライブする、APIエコノミーのバリューチェーンを構築することが可能となる。ラスムス氏は「フォーチュン1000にランキングされる大手企業のうち75%が2015年内にAPIを公開する予定。2016年の時点で50%以上のB2BコラボレーションがAPI経由になると推測されています」という見通しを示した。
日本国内ではなかなか想像できないが、グローバルに目を向けてみると、いち早く取り組みを開始したのは金融機関である。現在、ほとんどの金融機関はインターネットバンキングを有しており、そこから主要なサービスを提供している。その次のステップとして、決済、送金、不正監視、口座管理などのサービスをAPI経由で提供するケースが増えているのである。
例えば、不動産サイトに対して決済機能を提供する、自動車ディーラーに対してローンの審査や月々の支払シミュレーション機能を提供する、家計簿アプリに対して残高照会機能を提供するといったマッシュアップが進みつつある。「実際にCitibankやNordea、GE Capital Bank、Barclaysなど、名だたる大手銀行がAPIを公開したり、ハッカソンを行ったりしています」とラスムス氏。
繰り返すが、スクラッチで内製するよりも圧倒的なスピードで容易にコンポーザブルなアプリケーションを構築し、アイデアからデプロイまでのリードタイムを大幅に短縮できるのがBluemixのメリットだ。オンプレミスとクラウドのハイブリッド化に対応し、金融機関などから根強いニーズがあるプライベート(Dedicated)環境も用意。社外向けのAPI公開に必要なアセットもすべて取り揃えられており、サンプルAPIのほかユーザー制御、自動生成ドキュメンテーション、レートリミットなどを司るデベロッパーポータルも一貫して提供する。「IBMのテクノロジーとプラットフォームが金融機関とフィンテックの繋ぎ役として、デフォルトスタンダードになっています」(同氏)という。
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もちろん、金融機関に限らずあらゆる業界業種の企業がAPIの公開に乗り出し始めている。かつてない破壊的イノベーションが、APIエコノミーならびにその基盤となるPaaSから起こりつつあるのだ。