[インタビュー]
再生水プロジェクトで世界有数のデータセンター集積地に―バージニア州ラウドン郡の実践
2016年5月18日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)
米バージニア州北部、ワシントンDC郊外に位置するラウドン郡(Loudoun County)。自然豊かなこの地帯に、驚くほどの数のデータセンターが集積している。要因は3つ。1つは高速なネットワーク接続環境、もう1つは安価な電力、そして3つ目にして決定的な要因となったのが、同郡が推進した再生水プロジェクトだ。ICT分野での長年の経験と知見をプロジェクトに注いだ、米ジョージ・ワシントン大学 工学・応用科学スクール 教授講師のジョン・E・ビショフ博士(John Bischoff D.Sc.)に、画期的な「データセンター街おこし」の軌跡を聞いた。
――当初から、再生水をデータセンターの空調システムに利用する考えがあったのでしょうか。
いや、もともとは環境保全の観点から始まった行政プロジェクトである。この地図にポトマック川があるが、ワシントンDCの飲料水はこの川から取水している。したがって、川への排水に関しては非常に厳しい規制がある(写真1)。
そこで、流してしまうのではなく、何かに再利用しようという発想が生まれた。水処理のプロセスでは大量の排水が発生するが、規制の厳しいポトマック川にそのまま流すことはできない。そこで、シンプルでコストのかからない処理方法を用いて産業用の再生水を精製し、安価に販売する仕組みを整えた。
バージニア州水再利用規制法には、再生水の用途がレベル1とレベル2に分けて規定されている(図3)。当初は、農場やゴルフ場など一般的な用途を想定していたが、データセンターで大量の水を使うことが認知され、あっという間にレベル1の大手需要家となった。
こうして、もともと捨てていた水を、値段をつけて大量に売ることができるようになった。ラウドン水道局にとっては非常によいビジネスケースで、データセンターの側は格安で大量の水が買える。こうして全関係者にとってメリットのある、理想的な関係が成立したわけだ。
――再生水を使用することで、どのぐらいのコスト効果が生じるのでしょうか。
20万平方フィート(約18,580㎡)のデータセンターがラウドン郡の再生水を利用するケースを想定しコストの試算を行った資料がある(図4)。普通の浄水を使う場合、データセンターが設備投資の1つとして最初に支払うアベーラビリティチャージ(Availability Charge:可用性料金。いわゆる初期コストを指す)は、上下水道を合わせて約300万ドルになる。
一方、再生水を使った場合のアベーラビリティチャージは約95万ドルと、およそ3分の1にまで引き下げられる。また、その後の水の使用量、普通の浄水の半分ぐらいで済むので、運用フェーズでも年間5万ドルの節約になる。
エクイニクスは最近、この地に100万平方フィート(約92,900㎡)規模の新しいデータセンターを建設すると発表した。この試算に当てはめると、初期費用で1,000万ドル、それから年間費用で5万ドルの削減が見込める計算で、決め手となっている。同社の場合、すでに4つのデータセンターをラウドン郡に建設しており、もはやメリットは明白ということだろう。