日本IBMは2019年6月5日、同年5月1日に代表取締役社長に就任した山口明夫氏の会見を東京本社で開き、新体制に伴う新しいビジョンと重点分野について説明した。1087年4月入社、エンジニアから出発し、経営企画や海外事業そして事業統括と、32年間IBM一筋の山口氏がこれからトップとして何を目指し、同社をどう率いていくのか。会見で語られた所信表明から要点をお伝えする。
既報のとおり、山口明夫氏(写真1)は新元号・令和が始まった2019年5月1日から、エリー・キーナン(Elly Keinan)氏に代わって、日本IBMの代表取締役社長執行役員に就いている(関連記事:日本IBM、新社長に顧客IT戦略支援のGBS事業を統括する山口明夫氏が就任)。
社長就任会見は就任直後に開かれることが多いが、同氏の場合は約1カ月後の会見となった。その分、単なる所信表明にとどまらない、詳細な経営・事業方針が説明されることを期待して、本社箱崎事業所の会場に多数のプレス/アナリストが詰めかけた。
会見は、経歴の紹介から始まった。1987年4月に金融機関顧客の担当エンジニアとしてIBMerのキャリアをスタートした山口氏は、「当時のMVSやDB2など、20代はずっと顧客のシステムの分析や開発にあたっていた」という。
その後、エンジニアとして経験を積むも、2000年代に入ると経営企画を担当するなどマネジメントの領域に携わり始め、2007年には、顧客企業に寄り添ってコンサルティングや業務システム開発支援を行うグローバル・ビジネス・サービス事業本部(GBS)に異動。住信SBIネット銀行の開業に伴うシステム開発はじめ、数々の案件を担当。2017年にGBSの本部長に昇格、そして今年5月、生え抜きの日本人社長としては、橋本孝之氏以来7年ぶりとなる社長就任となった。
IBMが「時代のリーダー」を奪還するために
続いて山口氏は、メインフレーム、オープンシステム、そしてクラウドと進む企業コンピューティングのトレンド遷移と、折々でのIBMの提供サービスを整理したスライドを示した(図1)。
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前の2つの時代は、IBMがグローバルでIT業界を主導して輝きを放っていた時代と言えるが、現在は、IBM Watsonのようなテクノロジーこそ有するが、シェアや業績から言って「クラウドの時代」のトッププレーヤーにはなっていない。「この図にあるようにトレンドは全体的にシフトしているが、大企業だとメインフレームやオープンシステムも依然として残る」と山口氏は話し、強みのオンプレミスも含めたハイブリッドIT環境での優位性を訴えた。
また、早期から「Smarter Planet」のようなビジョンを掲げていたIBMには、高度なITの提供を通じて社会のさまざまな課題にこたえていく永遠のミッションがある。特に日本の環境で言えば、人材不足や働き方改革、少子高齢化、70代シニア層のネット利用拡大などだ(図2)。
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「今の社会を取り巻く環境は、課題も多いが(明るい)未来もある、錯綜した時代である」(山口氏)。そんな中で、日本IBMの舵取りを任された山口氏は、この先どのようなリーダーシップを発揮していくのか。
近年のIBMは、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション支援と、同社自身の「成長軌道への回帰」の道筋を「Digital Reinvention」と呼んで、推進のフェーズを章で表現している。同社会長兼CEOのジニ・ロメッティ(Ginni Rometty)氏によれば、現在のIBMは、Digital Reinventionの第2章に入ったところだという(関連記事:「信頼こそ差別化要因」─ロメッティCEOが語るIBMのデジタル戦略第2章)
ここで山口氏が示したDigital Reinventionのスライドは、顧客企業側でのデジタル戦略フェーズを示したものだが(図3)、ロメッティ氏がIBM自身のフェーズを第2章であるとしたように、日本IBMのフェーズであることも含めた打ち出しとなっている。
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「第1章は、やらざるをえない、いわば受け身の変革の時期だったと言える。実証実験の段階も経て、そろそろ攻めの変革に進む。実際(攻めの変革を実現する)さまざまなテクノロジーを適材適所で使える時代になっている。我々は、第2章を、次の新たな世界に行く通過点にすぎないと見ている。これまで作り上げた既存システムとデジタルシステムをより緊密につないでいく」(山口氏)
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