IoTやIndustrie 4.0に携わる人々の間で、エッジコンピューティングのエッジ部での制御にAIを活用したいという要望が多く上がっている。従来は、PCで教師データ学習を行い、その結果をエッジ部のマイクロコントローラに移して実行させる方法を採っていたが、そんなやり方を根本的に変えようとしているのがフランスのITベンチャー、カルテジアン(Cartesiam)だ。同社は2020年2月、AIエッジマイクロコントローラ開発環境「NanoEdge AI Studio」を発表し、学習と実行をエッジ部だけで完結できるソリューションとして売り出している。カルテシアムのWebサイトやCEOのブログ、現地の記事から特徴を紹介しよう。
豊富なキャリアの経営陣が立ち上げた創業5年目の新鋭企業
カルテジアン(Cartesiam)は、フランス南部、地中海に面したトゥーロンに本社を構える、2016年創業のベンチャーである。創業メンバーは4人で、CEOのジョエル・ルビノ(Joel Rubino)は、IBMなど大手ITベンダーを渡り歩き、IT業界で25年以上のキャリアを持つ。大手だけでなく、ソーシャルメディアやビッグデータ関連のベンチャー企業を立ち上げた経験もある多才な人物だ。
カルテジアンの製品開発の主眼は、センサー端末などのエッジデバイスにAI機能を実装すること。PoC(概念実証)に対しシード資金として50万ユーロ(約6500万円)を集め、2018年には200万ユーロ(2億6000万円)の調達をはたしている。
フランス発ITベンチャーの進撃はこれにとどまらない。テレコムパリ(Ecole nationale superieure des telecommunications:国立高等通信学校)のアルムナイ(同窓会組織)は1998年から毎年、秀でたIT企業を表彰しているが、2020年のイノベーション部門賞をカルテジアンが受賞。設立後わずか4年での受賞が、同社の高い技術力を知らしめることとなった(画面1)。ちなみにテレコムパリとは、グランゼコール(Grandes Ecoles:国家のエリート養成大学・大学院)の1つで、1878年設立の高等電信学校を母体に1942年に開校した情報通信分野の名門大学であり、産業界への影響は非常に大きい。

エッジデバイス上で直接AIを走らせる仕組みを容易に開発可能
では、カルテジアンがIoTやIndustrie 4.0に携わる人々のニーズにどのようにして応えたのかを見ていく。工場設備の監視や制御にはマイクロコントローラと呼ばれるエッジデバイスがたくさん使われているが、ここにAIをうまく活用できないかという要望が上がるようになった。そこで、各種センサーからの入力信号から高度で柔軟な処理を行わせるには冒頭で述べたような方法も試まれたが、非常に煩雑なプロセスとなってしまう。
従来、エッジのマイクロコントローラにAIを組み込むには大きく2つの問題点があった。1つは人材の問題で、この業界にAIに精通した開発者がなかなかいないこと。もう1つはシステムの問題で、データ学習用のPCと推論実行のマイクロコントローラがまったく異なるので両者のつなぎ込みが大変だったことだ。この2つの問題を同時に解決すべくカルテジアンが開発したのがAIエッジマイクロコントローラ開発環境「NanoEdge AI Studio」である(画面2)。

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●Next:AIに詳しくない組み込み開発者に向けたNanoEdge AI Studio、その仕組み
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