ホームセンターチェーンのカインズは2019年より”IT小売業”を掲げて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。取り組みの過程で同社が改めて注力したのが、店舗とECサイトで販売する商品のマスターデータ管理(MDM)である。2021年3月4日、JDMC主催の「データマネジメント2021」のセッションに登壇したカインズ デジタル戦略本部 eコマース部 部長の辻真弘氏は、MDMの取り組みの詳細と成功させるための秘訣を詳らかにした。
関東を中心に全国各都市で「ホームセンターカインズ(CAINZ)」を展開するカインズ。1989年に第1号店舗を出店し、現在は全国に218店舗を数える。取り扱う商品は30万点以上に及び、2007年から始めたPB(プライベートブランド)商品が好調で、全売り上げの40%を占めるに至っている。
2019年からは、”IT小売業”を掲げて、ITの本格的なビジネス活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている。
話題を呼んだ施策の1つが、希望の店舗の商品をネットやアプリで取り置きでき、店舗で受け取れる「Cainz PickUp」サービスだ。店舗内の売り場検索アプリから、EC決済済みの商品を店舗内のロッカーで受け取るサービスなど、さまざまなデジタル施策を展開している(写真2)。
カインズ デジタル戦略本部 eコマース部 部長の辻真弘氏(写真1)は、「デジタル技術の活用にあたっては、マスターデータを整備するMDM活動が必須」と力説する。システムを開発するだけでは不十分で、システムが正しく自動処理できるように、マスターデータをしっかり整備しなければならないことに行き着いたという。
組織のマインドがMDMを阻害する要因になっている
マスターデータの整備が基本にして重要であるにもかかわらず、現実には、多くの企業でMDMの取り組みが進んでいない、と辻氏。「MDMの重要性に気づいているにも関わらず、マスターデータを整備するプロジェクトは、なかなか賛同を得られない。MDMへの投資は承認されず、MDMプロジェクトには人材をアサインしてもらえない」という。
MDMプロジェクトを阻害する要因として辻氏は、「組織のマインドが壁となっている」と指摘する。特に、マスターデータの登録部署と利用部署が異なっているため、問題が起こった時にマスターデータの間違いが原因であると気づきにくい構造がある。
マスターデータの品質が可視化できていないことも問題である。品質を高めても、評価を得られない。品質に対する責任の所在も曖昧で、マスターデータの品質に誰が責任を持つのかが定まっていない。
マスターデータ品質に起因するトラブルは多い
実際に、マスターデータの品質が悪いことが原因となって起こるトラブルは多いと辻氏は指摘する。
例えば、商品担当がマスターデータを更新し、意図せずに商品に販売終了の設定をしてしまうケースがある。顧客からの問い合わせは、マスターデータを登録した商品担当ではなく、顧客窓口担当者が受ける。こうした問題を放置すると、確認作業や顧客対応に手間が発生する。
宅配便で発送する商品の重量データが間違っているケースも深刻である。倉庫において、想定していた重量をオーバーしていた場合、重量の制約があるヤマト運輸から佐川急便へと、配送業者を切り替える手続きが生じる。顧客も、別々の時間に複数の配送事業者から商品が届くことになる。
●Next:組織とマインドを変えられない原因と、改善の秘訣
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