公正取引委員会が、情報サービス業における取引実態に対して18年ぶりにメスを入れた。下請法上の違反行為や独占禁止法の優位的地位の濫用などの実態を調査するため、資本金3億円以下の2万1000社にアンケート調査やヒアリングを実施し、報告書を公開したのである。ユーザー企業はここから浮き彫りになる実態を直視し、構造改革に動くべきではなかろうか。
長年にわたる多重下請問題の根深さが鮮明に
公正取引委員会は2022年6月29日、「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」を公表した。
報告書からは、下請に対して、買い叩きや支払い減額、支払い遅延などの下請法違反や独占禁止法違反が目立ち、多重下請構造のサプライチェーンにおける多くの中抜き事業者の存在も浮かび上がる。例えば、違反行為に該当する経験の有無について、「買い叩き」は15.7%、「不当な給付内容の変更」は14.2%、「下請代金の減額」は13.5%が「ある」と回答した。また「中抜き事業者の存在を感じたことがある」との設問には全体で25.9%、最終下請けの回答者に限ると33.5%が「ある」と答えている。
多重下請は情報サービス業にかぎらず、製造業や卸・小売業や他のサービス業においても存在し、違反行為も指摘される。しかし同年5月31日に公表された公正取引委員会/中小企業庁の「価格転嫁に係る業種分析報告書」(図1)によれば、さまざまな業種の中でも情報サービス業の違反被疑行為は多い。このような指摘は以前からあったが、今回の公正取引委員会の調査によって情報サービス業における多重下請問題の根深さがより鮮明になった。
図1:下請法違反被疑事件の処理状況・業種別状況(出典:公正取引委員会/中小企業庁「価格転嫁に係る業種分析報告書」)拡大画像表示
調査が特に問題と指摘するのが、エンドユーザーや上流の発注者からの下請代金にまつわる“下流しわ寄せ型”の問題である。元請けから中間下請け、最終下請けへと、下請法や独禁法の違反が疑われる事案が連鎖して下流になるほど、しわ寄せを受けるというものだ。業者間の契約内容が必ずしも明確でないことに起因して、以下のような違反のパターンがある。
●買い叩き
●不当な給付内容の変更
●下請け代金の減額
●不当なやり直し
●支払い遅延や不払い
●過度な中抜き
●優越的な地位の濫用
こうした状況を受けて、公正取引委員会は5月20日、①独占禁止法上の優越的地位の濫用に関する緊急調査、②大企業とスタートアップとの取引に関する調査、③荷主と物流事業者との取引に関する調査など、優越的地位の濫用に関する各種調査において、関係事業者に対する立入調査などの業務を担当する「優越Gメン」制度を創設し、立ち入り調査など対応を強化することを決めた。
建設業界の多重下請とはまったく異なるIT業界の実態
情報サービス業の多重下請問題とよく比較されるのが建設業である。ITゼネコンという言葉もあるように、元請会社から1次下請、2次下請と流れていくサプライチェーンの構造はよく似ている。どちらも受託事業がメインであり、特に建設工事の現場はあちこちで見ることが多く、多重下請構造が目立つせいかもしれない。
だが違いも多い。筆者は長く建設業界で働いていたので、似て非なる実態について常に発信してきた(図2)。
図2:情報サービス業と建設業の実態の違い(筆者の整理)拡大画像表示
建設業における下請とは、鉄筋とか鍛冶とか土工とか大工とか、それぞれの施工技術分野での専門工事業者である。それぞれがプライドを持っているプロ業者であり、押し並べて同じことをする業者ではない。したがって、建設プロジェクトでは施工体制というチームが編成される。工事の規模にもよるが、事業者は施工体制を明示する義務があり、工事現場のフェンスには施工体系図やそれぞれの専門工事業者の許可票が開示されている。街で見かけた方も多いのではないだろうか(写真1)。
写真1:工事現場で見られる施工体制の表示例業界の違いが出る最大の要素は、建設業には建設業法があり、国や都道府県の許可を得て事業を営んでいることだ。登録免許税や許可手数料も納めている。建設業では下請の制限、請負代金、資材購入、下請代金の支払いなど、さまざまなレギュレーションの中で事業が行われているし、技術者には一級建築士などの資格が必要だ。もちろんそれで問題がなくなったわけではないが、多重下請構造を前提にした諸制度がある意味は大きい。
対する情報サービス業には、そのような業法がない。情報サービス業に許可はいらないし、資格がなくてもプログラムは書ける。元請がどこの会社に下請に出そうが、一般には開示されないし、サプライチェーンも見えない。言わばレギュレーションがない“無法産業”であり、下請法違反が起こる不透明性や不明確なサプライチェーンの下地があるのだ。同じような多重下請構造ではあっても、実態はこんなに異なっていることを知る必要があるだろう。
●Next:ユーザー企業は今こそ構造改革に動くべき
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