21世紀に入ってから、インターネットを通じての個と個のコミュニケーションが活発になった。SNSによるところが大きく、スマートフォンの爆発的な普及がそれをより活性化させている。日本におけるSNSのアクティブユーザーが8000万人を超え、さらに増加していることは社会インフラになっている証左でもある。そんなSNSを通じて知り合うことの功罪について、一種の実験を通じて改めて考えてみた。
SNSを通じて知り合うことの功罪
日本発のSNS/CGM(Consumer Generated Media)には、2004年に登場したmixi(画面1)やGREE、その後サービスが開始されたニコニコ動画などがあり、現在でもこれらのサービスは提供されている。一方で、海外発のTwitterやFacebook、YouTube、Instagram、TikTokなどが世界的に普及し、多くの人が日常的に使うようになった。
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これらSNSによる交流はリアルで気心が知れている仲間となら、とても便利な通信サービスだ。直接の面識がなくても、実名を基本とするビジネス系SNSであるLinkedInなら素性やキャリアが比較的わかりやすいし、サービス趣旨上、仕事の依頼が来たりもする。
しかし多くの場合、SNSを使った知らない人との不用意なつながりはリスクを含む。例えば子供たちのトラブルはTwitterやInstagramを介してつながるケースが多いという。警視庁のデータによると、SNSを通じた子供の犯罪被害は驚くほど増えている。15歳以下が半数以上を占めるなど低年齢化しているそうだ。2020年にはコロナが拡大して実行動が減ったせいか、被害は一時的に減ったように見えるが、悪意があるかぎり被害は絶えない(図1)。
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子供にかぎらず、大人(成人)の被害も甚大である。特に高齢者が陥りやすく、メールやSNSを介したパスワードやクレジットカード番号を漏洩してしまう、いわゆる特殊詐欺が増えている。
警視庁の資料によると、電話によるオレオレ詐欺を含めて昨年度の特殊詐欺の件数は1万4498件、被害額は282億円に上る。誹謗中傷の被害も年齢層にかかわらず絶えない。逮捕者や裁判での高額な賠償金請求も増えている。SNSから詐欺を働こうとする悪意があるのも、このネット時代では必然だと考えるべきだろう。であれば、実際に検証してみようと思い立ち、実験を試みた。
SNSにはびこる悪意の実態─未知の人と対話した顛末
SNSでは面識のない人からもよくメッセージが来る。送り主は圧倒的に女性が多いが、男がなりすましている可能性もある。男は女性からの誘いで詐欺にかかりやすいということか。普段は無視して放置しているが、SNSの悪意を検証すべく、写真やプロフィールもきちんと書かれている人を選んで5人からのメッセージを受け入れてみた。すべてInstagramのメッセージから筆者宛てにリクエストがあったケースである。その顛末を紹介しよう。
①香港の銀行のCEOを名乗る男性
Instagramのメッセージ機能でしばらくやり取りしていたが、LINEでコミュニケーションしたいと言うので、LINEのIDを交換して話し始めた。2週間くらいは日常の生活や趣味や食事の好みなど他愛ないやりとりをしていたら、突然、「重要な話がある」と言ってきた。
「銀行の顧客に、武漢に40年も住んでいて2020年にCOVID-19で亡くなった人がいる。家族や身寄りがいない。口座に2300万ドルがあるが、連邦財務省がお金を請求しようとして機会を狙っており、現在は私がCEOとしてこのお金のすべての責任者になっている。ビジネスパートナーとして50/50で受け取れるように弁護士と手配したい」と言うのだ。
いかにも詐欺っぽい話なので「金銭にはまったく関心がない」と伝えると、話を変えてきた。今度は日本で飲食店を購入したいという。「4000万円くらいで探してほしい。代金を振り込むので口座番号を知らせてもらいたい」。
日本の飲食店舗を売買したければマッチングサイトはたくさんあるし、Web検索すれば済む。潮時と見て「自分で買えばいい」と伝える一方、その銀行のコンプライアンス担当部署にメールで香港CEOの存在となりすましではないかを問い合わせた。すぐ返信があり、「当行の役職員がSNSを通じて金銭の話をすることはない。なりすましと思われる」と回答があった。その旨を通知してLINEをブロックした。チラ見させたパスポートも偽造なのだろう。
②アブダビの銀行のエグゼクティブと名乗る男性
Instagramのメッセージから長文の英語で、次のようなことを言ってきた。「苗字があなたと同じ、ある日系人が2005年から12年間の定期預金を持っていて、その総額は3000万ドルである。彼は出張で東北を訪れた時に大震災に遭遇して亡くなった。彼には家族はなく近親者や相続人についても届け出はなかった。このままでは欲張りな役員が個人的に使ってしまう恐れがあるので、同じ苗字の貴方に50%だけでも受け取ってほしい。手数料も折半で」。これは①のケースとほぼ同じパターンだが、苗字が同じであることをダシにした詐欺だ。手数料の搾取が目的と思われたので即、ブロックした。
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