[木内里美の是正勧告]

日本の衰退を招いた「衰退する教育」、海外との差を直視する

QS世界大学ランキング最新版が示す日本の教育の現在位置

2023年1月24日(火)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

日本の産業や経済の衰退が言われて久しい。その根源に長年の学校教育の問題がある。小学・中学・高校で均質・均等な知識教育を行う日本の教育によいところもあるのだが、社会に出た人材が高い競争力をもって世界レベルで抜きん出ることが難しい。このままでは世界を舞台に活躍できず、永遠に勝てない。どうしたらよいか。

QS世界大学ランキング最新版からわかること

 読者の皆さんは、日本の大学が世界的にどのポジション(ランク)にいるかをご存じだろうか? 次のリストは、世界の大学ランキング評価において最も権威ある機関、英国クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds:QS)が発表した、2023年のQS世界大学ランキング/QSアジア大学ランキングの上位校である。同ランキングは学術関係者からの評判、教員・学生比率、論文被引用数など6項目の指標から算定されている。

QS世界大学ランキング2023

1位(1)マサチューセッツ工科大学(MIT)(米国)
2位(3)ケンブリッジ大学(英国)
3位(3)スタンフォード大学(米国)
4位(2)オックスフォード大学(英国)
5位(5)ハーバード大学(米国)
6位(6)カリフォルニア工科大学(Caltech)(米国)
6位(7)インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)(英国)
8位(8)ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)(英国)
9位(8)スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)(スイス)
10位(10)シカゴ大学(米国)
11位(11)シンガポール国立大学(NUS)(シンガポール)
12位(18)北京大学(中国)
13位(13)ペンシルバニア大学(米国)
14位(17)清華大学(中国)
15位(16)エジンバラ大学(英国)
16位(14)スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)(スイス)
16位(20)プリンストン大学(米国)
18位(14)イェール大学(米国)
19位(12)南洋理工大学(NTU)(シンガポール)
20位(21)コーネル大学(米国)
※カッコ内は前年順位

QSアジア大学ランキング2023

1位 北京大学(中国)
2位 シンガポール国立大学(NUS)(シンガポール)
3位 清華大学(中国)
4位 香港大学(HKU)(香港)
5位 南洋理工大学(NTU)(シンガポール)
6位 浙江大学(中国)
6位 復旦大学(中国)
8位 韓国科学技術研究所(KAIST)(韓国)
9位 マラヤ大学(UM)(マレーシア)
10位 上海交通大学(中国)

 世界でもアジアでも、日本の大学はトップ10には出てこない。10位以下を見てようやく、日本トップの東京大学(画面1)が世界で23位、アジアで11位にランクされていると分かる。同大学は39位だった時期もあり(2016年)、そこからはだいぶ順位を上げているのだが、23位では喜べないだろう。そのほかの大学はより低迷気味で、こういう現実を知っている有識者、学会関係者は多いはずだが、懸念は持っていても改善のための具体策には至らない。これでは技術立国を謳っても虚しいだけである。

画面1:東大ですら世界で23位、アジアで11位に甘んじている
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 日本の教育のよいところも当然ある。小学・中学・高校で均質・均等な知識教育を行うことによって、国民識字率の高さはトップレベルである。逆に個性を生かした自律的に学ぶ大学からが勝負になる。その大学が世界的に見ればトップレベルとは程遠いのが現実なのである。

 ランキングを見ると、トップ10のほとんどが米国と英国の大学だ。であれば両国のどこかの大学に留学して学べばよいのだが、留学生数の推移を見ると何と激減している。Statistics & Dataが公開している統計「International Students in US by Country of Origin - 1949/2020」によると、1993年から2000年くらいまで日本から米国に留学する学生数は4万人を超えて一時はトップだった。ところが2010年代半ばくらいから急速に減少し、他国に抜かれていく。

 この数字に違和感があるかもしれない。日本学生支援機構の調査によると、政府の施策もあって2010年代を通じて日本人留学生数は年々増え、コロナ前には10万人を超えているからだ。しかし大半が1カ月以下や数カ月程度の短期留学であり、1年以上の留学生は全体の1%以下でしかない。コロナの影響以前から長期留学は衰退していたのだ。活性化していた時期は日本のバプル経済時期とも重なっているが、急減している現象は経済環境の問題ばかりではないだろう。

 一方で、大量の留学生を送り出しているのが中国とインドである。両国の経済の台頭とリンクし、技術力にもつながる。慶応義塾大学の鈴木名誉教授の情報によれば、英国への留学に至っては惨憺たる状況で、2022年の英国の全留学生約60万人の3割以上が中国でトップ、日本はカウントにも上らないという。

 Statistics & Dataは、その推移を動画1で示しているので、じっくりと過去71年間の米国に留学した各国の人数とランクの移り変わりを見てほしい。近年の日本の衰退を実感できるはずだ。


動画1:米国大学の国別留学生数推移(出典:Statistics & Data YouTubeチャンネル「International Students in US by Country of Origin - 1949/2020」

英語を話せない教育では世界では戦えない

 英語圏の米国や英国、オーストラリア、シンガポールの大学に留学するには、日常生活や講義理解のために相応の英会話力が必要だ。日本人の場合は、自助努力して身につけるか、現地の英語学校でスキルを磨かねばならない。このステップを踏まないと世界ランク上位の大学に留学することはできないから、英語礎能力の欠如が海外留学の足を引っ張っていることは間違いない。

 問題の根源には、中学・高校・大学を通じて授業で学んできたにもかかわらず、英会話ができるようにならないという日本の英語教育の欠陥があることは、よく知られている。これに関してデンマークでは、子供でも老人でも英語で話しかければ英語で返答が返ってくることを、知人から聞かされた。公用語でもない英語を老若男女のほとんどが話せるというのだ。

 理由を尋ねると、同国には国民学校の10年間でだれでも話せるようになる教育制度があるそうだ。コミュニケーションとしての英語を教えているから、日本で言えば中学校を卒業する頃には英会話に困ることがないという。

 そのような他国に学んだのかどうかはともかく、日本でもようやく2020年から新学習指導要領が実施され、小学3・4年生から外国語活動、5・6年生になると「英語によるコミュニケーションスキルの基礎を養う」ことを目的にした教科(授業)が始まった。中学校や高等学校でも、文法重視からコミュニケーション能力の育成へと英語教育の重点を変えていく方針である。それに伴い、高校に加えて2021年以降は中学でも、「英語の授業は英語で行う」ことが基本になった(図1)。

図1:新学習指導要領における外国語教育の抜本的強化のイメージ(出典:文部科学省)
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 しかし、米国防省付属機関の調査によれば、日本人が日常生活に困らない程度の英語力を身につけるためには、2400~2700時間が必要だと言われている。新学習指導要領での小学5・6年生に割り当てられる学びの時間は週にわずかに2コマ、年間70単位であり、年間52.5時間にすぎない。これでは生ぬるいと言わざるをえない。とてもデンマークのようにはいかず、高校を卒業してもまともに英語でコミュニケーションを取れる学生はわずかしか排出できないだろう。

 新学習指導要領については、「年間72単位を英語力指導に充てるのは難しい」「教科書や教材はどうするのか。英語だけになるのか」「日本語も不十分な生徒に、英語だけの授業できちんと教えられるのか」といった議論があるようだ。筆者は高知県北川村で子供たちの教育にも関わっているが、北川村では英語とフランス語のネイティブスピーカーの指導者を雇い入れて外国語活動に力を入れている。

 学校教育の専門家ではないのでこれ以上は深入りしないが、校長の取り組み姿勢や教師(先生)の資質の問題もあると思われるので、一歩ならぬ半歩前進といったところか。多くの国民が大学院まで進学する時代に、国民総英会話音痴のような状態で海外進出もインバウンドの迎え入れも出来たものではない。この大問題をメディアが取り上げるなどして大きなムーブメントを起こし、教育改革に結びつけてもらいたいものだ。

●Next:人材育成/教育プログラムを作っただけでは改善しない

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